リーマンショックが引き起こした100年に一度という世界不況は、消費者の財布の紐をきつく縛っただけでなく、必要以外の用事で人を家から出さなくした。この結果、デパートや量販店の歳末商戦は散々で、正月の温泉地や地方のテーマパークはガラガラ、スキー場でも、昨年はあれほどいた外国人スキーヤーの姿は見られず、人が増えたのは神頼みをする初詣での神社だけという状態であった。このような動きは世界各地共通に見られ、いまや世界中の集客産業が瀕死の状況にあるといって過言ではない。
人間には、種族保存と維持のために食欲、性欲に加えて集団欲という三大本能が備わっている(しばしば誤解があるが睡眠欲は三大本能には入らない)。つまり本来、動物としての人間は「群れ」の中にいて安全、安心に生きたいと思うほうが自然なのである。人間の脳が知的に発達し、文化的に高尚な動物になるにつれて、「群れをなすのはカッコ悪い」という価値観が生まれてきた。
また近年では、家から出なくても用が足せるインターネットや携帯電話、劇場に行かなくとも臨場感が楽しめる大型画面テレビやオーディオ等のIT型文明の発達が、ますます人を家から出さなくしている。これに加えて今回の世界不況である。外に出ればお金がかかる。そのため集客産業にも、それが集積する都市にも人が集まらなくなっている。
一方、19世紀半ばに発明されたデパートをはじめ様々な商業施設やホテル、劇場、競技場、遊園地、テーマパーク等、大量に人を集めないことには商売にならない集客産業は、あの手この手を使って人を集めるための研究を重ね、試行錯誤を繰り返してきた。しかし、そのわりには集客に関する名著はおろか本そのものが少ないというのも妙なことに事実である。
ここで紹介する1冊目は、『ディズニーが教えるお客様を感動させる最高の方法』である。集客産業の世界チャンピオンであるディズニーランドの集客の秘密をディズニー本家自身が解き明かした1冊である。そのキーワードである「感動」を、ディズニーがいかに大真面目に科学的に研究し、その成果である「クオリティ・サービス・サイクル」をいかに従業員に徹底させているかは一読の価値がある。
2冊目は、建築史・都市文化論の専門家である橋爪紳也氏の『集客都市』である。人が集まらなくなっているのは集客産業だけではない。人が集まることが定義の一つである都市、特に都心に人が集まらなくなっている。本書は都市の集客の回復のキーワードとしての「文化の仕掛け」を世界的事例を基に提示している。都市ビジネスや街づくりに関心の高い人にもお勧めしたい1冊である。
3冊目は、『クラブとサロン』(古書なら入手可)である。豊かな高齢社会になり、人がお金をかけてでも時間を過ごしたい場所(トポス)を突き詰めていくとクラブとサロンになるらしい。集客の未来は、社交(ソーシャライゼーション)という新しいライフスタイルが握っているかもしれない。未来の集客を考えたい方にはお勧めの1冊である。