世話になった人を送り、苦楽を共にする人を迎えるビジネスマンの春。どうしたって酒席は増える。しかも祝いの酒だ。くつろげて、なおかつ「おいしい一軒」を選びたい。
そんなとき参考にしてほしいのが『今宵も酒場部』。「飲んで描いたおとなの部活動報告」とサブキャッチのついた一冊だ。
画家の牧野伊三夫氏と、通信社出身で今はフリーの鴨井岳氏の2人によるリレーレポート。携帯サイトに週1回で掲載されたものをまとめている。
この2人、とにかく酒場が好きだ。立ち飲みからワインバー、小料理屋、大衆酒場、あらゆるタイプの酒場を歩き、飲み、食い、酔ってから、文章と絵を描いている。
書名に酒場部とあるように、2人を囲むゲストも次々に登場し、店の主人、女将さんなどとの交遊を繰り広げる。どの店も居心地がよさそうに感じられるのは、著者らが実際にその空間を存分に楽しんでいるからだ。店の選択も申し分なし、と思う。気の置けない仲間を誘い、2、3人で開く歓送迎会や、大勢での会のあとの二次会の会場探しに、必ず役立ってくれる。
酒と酒肴をしっかりと楽しんだ後には、バーはいかがだろう。問題は、どんなバーで飲むか。各種ガイドがあるけれど、お勧めしたい一冊が、安価な文庫で出版されている。
『TO THE BAR』という本がそれだ。著者は切り絵作家の成田一徹氏。東京の職人や昔ながらの風景風俗などを切り絵で見せる新聞連載をしている人だが、ライフワークは酒場だ。バーを切り絵にし、短文を添えて紹介する切れ味は抜群で、本書には、そのうち74軒が掲載されている。
著者は、長い年月をかけて多くのバーに出合い、通い続けてきた。通りすがりの一瞥でバーを評することがないから、一枚の絵とごく短い文章だけで、バー全体を見事に捉える。
掲載店のエリアは、東京、横浜・沼津、京都、大阪、神戸と広く、紹介される顔ぶれも素晴らしい。もう一軒どうしようかというときに、心強い情報を提供してくれるはずだ。
さてもう一冊。毛色の変わったところから、『悶々ホルモン』も推奨いたしましょう。
著者は20代の女性ながら、ためらうことなくひとり焼き肉を敢行する傑物。本書には、ホルモンを求めて歩いた44軒における熱い食風景が収められている。
その食いっぷりがすごい。ブタの睾丸や馬の脳みそなどにまで食指は伸びて、著者は自由闊達な筆致で、そのうまさを余すところなく表現している。
ホルモンといっても、いわゆる韓国料理屋や焼き肉店ばかりではなく、モツ焼き屋、モツ鍋屋、さらにはワインダイニングなども登場。しかも、オヤジひしめく店のほかに、若い女性がくつろげる店も紹介されているので、女性を伴う飲みの席選びにも活用できそうだ。
3冊すべてに言えることは、ガイドとして有用なうえに、読み返してさらに興味をそそる内容であることだ。折に触れて読み返し、明日出向く一軒を決めるのも楽しい。