なぜ昔ながらの下町の大衆酒場には「もつ煮込み」があるのか。ライターの石田哲大氏は「もつの中でも、消化器系の『白もの』は比較的安く手に入る。独特の臭みが気にならない食べ方として、みそやしょうゆで調味して煮込んだメニューを店が提供し、安くて栄養価が高いつまみとしてヒットしたのではないか」という——。
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大衆酒場ともつ煮込みの切っても切れない関係

東京の下町である浅草の中心に位置する浅草寺。その西側に大衆酒場が密集している通りがある。通称「ホッピー通り」、まれに「煮込み通り」「煮込みストリート」などとも呼ばれる。道路の両側には、店先に椅子とテーブルを並べた気取らない居酒屋が軒を連ね、昼間から酔客でにぎわっている。いまでこそ若い世代の女性客も少なくないが、足立区千住で育った筆者の母親は、「昔はあの辺はガラが悪くて、女子供が行くような場所ではなかった」と話していた。

ホッピーも煮込みも、20年か30年くらい前までは年配男性、いや、はっきり記せば、場末の酒場で薄汚れたおっさんたちが飲み食いするものだった。それが、昨今の大衆酒場ブームの影響で、ホッピー通り(以前はそんな名称はなかった)もすっかりさま変わりしたわけだ。

ホッピー通りの店に限らず、東京の下町にある飲み屋のメニューには、必ずといっていいほど「煮込み」が載っている。名の知れた老舗から地元住民でにぎわうマイナーな店まで、ほぼ例外はない。たとえはじめて入る店でも、「ビールと煮込み!」と頼んでおけば、まず間違いが起こらないはずだ。

この場合の「煮込み」だが、なんの断りもないケースは、暗黙の了解として「もつ煮込み」である。なかには、鶏肉や牛肉、牛スジなどの煮込みを出す店もあるが、圧倒的に多いのは「もつ」である。どうしてなのか。なぜ、下町の大衆酒場ともつ煮込みは切っても切れない縁になったのか。