豚の小腸や大腸を使った煮込みはジューシーになる

さて、もつ煮込みの歴史や文化的背景をかいつまんで記してきたが、じっさいに大衆酒場に行くと、同じ「もつ煮込み」であっても、使用する材料から部位、味つけまで、店によって大きく異なることに気づくはずだ。

まず、なんのもつを使うか。もつ焼き(やきとん)をメインで提供している店は、当然、豚のもつを使うことが多い。使用するのは、主にシロと呼ばれる小腸か大腸。内側に脂が付着しているので、ジューシーで食べ応えのある仕立てになりがちだ。味つけは、しょうゆかみそで、ニンジン、ダイコン、コンニャクなどが入ることも多い。東京ではもっともオーソドックスなスタイルのもつ煮込みといえる。

一方で東京の老舗では、牛のもつを使う場合も少なくない。『居酒屋の定番 煮込み』(柴田書店)によれば、「東京三大煮込み」とも称される森下の「山利喜」は、牛の小腸とギアラ(第4胃)を主に使用。同様に三大煮込みの一角とされる月島の「岸田屋」は、ギアラ、小腸に加え、フワ(肺)と軟骨も使っている。

味つけは、山利喜は赤みそがベースで、香味野菜や赤玉ポートワイン(現:赤玉スイートワイン)で風味づけ。岸田屋は2種類のみそをブレンドして使っている。一方で秋葉原の名居酒屋「秋田屋」はギアラと小腸を使ったしょうゆベースの味つけであるし、最近は塩味のあっさりしたもつ煮込みを提供する店も増えている。さらに門前仲町の老舗「大阪屋」は、牛の小腸、フワ(肺)、軟骨を串打ちして煮込むスタイル。お客は、好きな部位を3種から選んで注文することができる。

日本中にご当地の「もつ煮込み」がある

老舗に負けじと、ここ10年くらいのあいだに、新しいコンセプトの煮込み専門店も続々と登場している。茅場町の「東京JuJu」、中野の「煮込み屋ぐっつ」などは、ワインのアテをイメージした煮込みを提供。最近では、名店と呼ばれた店で修業した店主が独立して「もつ居酒屋」を開業するケースも増えている。

地方に目を向ければ、名古屋の「どて煮」、博多の「もつ鍋」、甲府の「鶏もつ煮」、馬のもつを用いた長野の「おたぐり」などなど、地域に根付いた「もつ煮込み」を挙げていくと切りがない。おそらく日本各地でご当地のもつ煮込みが食べられているのではないか。その理由は、今も昔も安くて栄養価が高いもつ煮込みは庶民の味方であり、金はないけど酒は飲みたい酔客が集まる大衆酒場には欠かせない存在だからだ。

家庭ではつくる機会が少ないもつ煮込みを食べ歩いて、もつの文化や歴史に思いをはせつつ、好みの1品を見つけてみるのも楽しいだろう。

※参考文献公益社団法人 日本食肉協議会『畜産副生物の知識

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