新型コロナウイルスの影響で居酒屋チェーンは大打撃を受けている。そんななか、好調を維持しているのが「やきとり大吉」だ。店舗数は640店と「鳥貴族」よりも多く、焼き鳥チェーンとしては事実上日本一。ただし、どの店舗も駅から遠い不便な立地にある。その儲けのからくりをライターの石田哲大氏が解説する――。

チェーンと個人店のいいとこ取り

「やきとり大吉」(以下、大吉)の魅力をひと言で表すと、「チェーンと個人店のいいとこ取り」ということになる。原稿を書くにあたって久々に都内の店をまわってみたが、あらためてその強みを実感した。

このご時世にもかかわらず、比較的都心に近い店は日曜の早い時間に満席。ほかの店でもカウンターには常連の年配客、ボックス席には近所に住んでいるだろう夫婦や女性同士というように、どの店もそれなりに客が入っていた。若いアルバイトスタッフの友達が彼氏を連れて飲みに来ていたり、小さな子供を連れたお父さんが焼き鳥をテイクアウトして行ったりといったほほ笑ましい姿も見かけた。老若男女が思い思いに楽しむ居酒屋のあるべき姿が、そこには存在していた。

今後加速する3つの潮流に合致している

以前、「居酒屋チェーンはもう限界だ 『コロナ後』の酒場に起きる3つの大変化」(2020年11月16日)という記事を書いた。そのなかで今後、以下の3つの流れが加速すると指摘した。

(1)都心の繁華街立地→住宅地に近い立地
(2)大箱店→従業員の顔が見える小箱店
(3)チェーン的な店→「人の魅力」を売る店
やきとり大吉 西池袋店
やきとり大吉 西池袋店(筆者撮影)

すなわち、繁華街に店を構えた大箱のチェーン店の淘汰がさらに進む一方で、都心から離れた従業員の顔が見える小さな店に需要がシフトしていくというわけだが、この3つの潮流にぴったり合致しているのが大吉なのである。

大吉は1978年、兵庫県尼崎市に1号店をオープンして以来1000店以上を出店し、現在も640店を展開する焼き鳥チェーンである(テレビ東京系「ガイアの夜明け」、1月12日)。「鳥貴族」が622店(2020年12月末時点)だから、それより店舗数が多い。焼き鳥チェーンとしては事実上日本一だといえる。

店舗数については拮抗きっこうしている両チェーンだが、大吉と鳥貴族の出店戦略は対照的だ。鳥貴族が都心の駅前が中心なのに対し、大吉の店舗は街中にはなく、「こんなところに?」という辺鄙へんぴな場所であることがほとんどだ。これは大吉が住宅街に特化して出店するという独自の戦略を採用しているからである。