沖縄初のプロオーケストラ・琉球交響楽団(琉響)が、約15年ぶりのCDアルバム制作に向けてクラウドファンディングで資金を募っている。発起人で指揮者の大友直人氏は「日本のクラシック音楽を盛り上げるためには、時代に即した新しい音楽をつくり出す活動が不可欠」と訴える。なぜその具体策がクラウドファンディングなのか。その背景にあるクラシック音楽業界の課題とは――。/取材・文=加藤藍子
「背水の陣」で挑んだクラウドファンディング
「今回は相当厳しい。延期するしかないかもしれない」
協力してCD制作を手掛けるリスペクトレコード社(東京)の高橋研一代表が、大友氏にこう電話してきたのは2019年6月のこと。「楽団員もすっかりやる気になっている。ここでプロジェクトを止めるわけにはいかない、と頭を抱えました」と大友氏は振り返る。
琉響が第一作のCDをリリースしたのは2005年だ。沖縄で親しまれている伝統音楽をオーケストラ音楽に編曲し、地元を中心に好評を集めた。しかし、当時と比較すれば、音楽CDの市場規模は大きく縮小している。さらに、公的助成を得ていない琉響の財政基盤は厳しく、採算が取れないことは想像に難くなかった。それでも、皆でどうにかプロジェクトをやり通す方法がないか――。結果、思い当たった唯一の手段がクラウドファンディングだったという。
必要経費の総額は約750万円。自分達ではどうにもならない金額だ。大口のスポンサーを探すにしても確たるあてはない。半分だけでも確保するため、目標額を350万円に設定して、7月10日にクラウドファンディングをスタートした。当初は反応が鈍く、ゴールは見えなかった。だが、9月13日の最終期限まで2週間を切ったところで急激に支援者が増え、350万円をクリア。現在は、新たな目標額として、550万円を設定している。仮に達成したとしても、すべての費用をまかなえるわけではない。なぜそこまでしても大友氏は、このプロジェクトを成功させたいと考えるのだろうか。