東京と地方では「音楽へのアクセス」に深刻な格差がある
琉響の楽団員は県芸の卒業生が中心で、現在34人だ。春と秋の定期演奏会のほか、地元の学校などで年間約80回の公演を行うなど活動は盛んだが、財政基盤は安定せず、ほぼ全員が音楽教室での指導や、楽団外の演奏活動などで収入を補わざるをえない。
演奏家たちが広報活動、事務作業なども兼務して楽団の活動が成立している状況の中、大掛かりなオリジナルCD制作に挑むことはリスクでもある。だが、それでも大友氏は「地域の、そしてクラシック音楽の未来をつくっていく上で重要な取り組みだ」と力を込める。
日本のクラシック音楽業界全体に目を移せば、観客の高齢化や、欧州各国などに比較して公的助成が少ないことなどが問題視されて久しい。大友氏はなかでも、東京と地方の「格差」の深刻さに目を向ける。
「音楽への『アクセス』について、こんなにもひどい状態の地方がたくさんあるということに対しては、悲しいの一言しかありません。プロオーケストラもホールも東京や大阪など大都市圏に集中し、日々数え切れないほどの公演がある。ところが、一歩地方に足を踏み入れるとどうでしょう。公演自体が少ないことに加え、例えば東京のオーケストラが巡業に来ても、旅費や宿泊費が上乗せされチケット金額が倍以上に跳ね上がることも。教育と文化について、国民がそれを等しく享受できる環境をつくるのが国家の使命であると僕は思いますが、それが果たされていません」
どうやって「日本型」のオーケストラを成立させるか
チケット収入には限界があり、それ以外の方法で資金を集めなくてはいけないという事情は、世界中どこのオーケストラでも同じだ。米国では、税制上の優遇措置によって個人・企業からの寄付金を集めやすい仕組みを整え、欧州では国や自治体の助成が厚いことで知られる。そんな中、「日本型」をどのようにつくっていけばいいのか。
「日本に関しては、公的助成の状況は地域や団体によって隔たりがあります。民間の援助の厚みを増していきたいところですが、これも民間経済が潤っていない地方では、思うように伸びない。琉響の今回のプロジェクトを何とか成功させ、こういった状況を打開するための一つの試みとしていけたらうれしく思います。地域独自の豊かな文化は観光資源にもなりますから、長期的にみれば、地元経済を潤すことにもつながっていくはずです」