大学受験対策の授業がほとんどなく、進路指導も「頑張って」の一言。おまけに校則もない。徹底的な自由放任主義の麻布高校(東京・港区)が、全国有数の東大合格者数を誇り、数々の経済人を輩出できるのはなぜか。卒業生への取材から、その理由に迫る――。

※本稿は、永井隆著『名門高校はここが違う』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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5年間は何をしたって許される

衆議院議員の柿沢未途氏(1989年卒)は言う。「麻布生について私のセルフイメージは、ニヒリズムがかった“ふざけた人”。学校が自由放任だから、個性の振れ幅が広い。みんな斜に構えてふざけている。規律そのものが麻布にはないかもしれません」。

麻布高校と開成高校は、東京の男子進学校として比較されることも多いが、開成高校OBの言葉、「ディスプリン(規律)が保たれていることが開成の特徴」とは対照的である。

柿沢氏は「麻布中・高に入って勉強をするのは、高校3年の1年間だけ。それ以外の多感な5年間を自分のやりたいように過ごし、毎日が楽しくて仕方なかった。人生の中であれほど素晴らしい期間は二度とないと思います。だから麻布生は学校愛が強い。私は東大の同窓会はたまにしか出ませんが、麻布の同期との忘年会は毎年欠かさず出席しています」と話す。

自由放任主義と圧倒的な信頼関係

「とにかく勉強しなかった」と笑う柿沢氏だが、その青春時代は充実している。海外生活をしてみたいと、中学2年の1年間は、米国で短期留学を経験。高校進学後は友人に誘われてラグビー部に所属し、フッカーを務めた。だが柿沢氏が熱中していたのは、スクラムを組むことよりも別のことだったと言う。「運動部だけれど、部室で麻雀や競馬予想に明け暮れた思い出のほうが強いかもしれない。雀荘で徹夜麻雀して、そのまま授業を受ける猛者もいましたね。彼は今、開業医です(笑)」。

高校2年時には、学校の向かいにあった愛育病院のゴミ捨て場から、冷蔵庫とテレビを拾ってきて教室に設置。授業中にもかかわらず、冷蔵庫から取り出したコーラを飲み、仲間とワイドショーやメロドラマを観賞した。「傍若無人、もうやりたい放題でした。だからと言って学校が荒れているのではない。ふざけた空気が蔓延していたのです」。

普通の感覚からすれば“学級崩壊”だろう。しかし、ここが麻布の懐の深さである。「先生方が私たちを咎めることはなく、授業は淡々と進みました。生徒を信頼しているとも言えるし、自由放任とも言えるかもしれない」。