米中覇権争いが繰り広げられるが、中国の実力とはどれほどのものか。静岡大学教授で文化人類学者の楊海英氏は「中国が将来、米国を圧倒することはあり得ない」という。その理由とは――。
首脳会談を前に握手するトランプ米大統領(左)と習近平中国国家主席=2019年6月29日、(大阪府大阪市)(写真=AFP/時事通信フォト)

日本は将来、米中のどちら側につくのか

米中2大国の覇権争いが世界から注目されている。経済の分野では「貿易戦争が発動された」とか、先端科学技術分野では、「5世代移動通信システム(5G)開発の主導権をめぐって対立している」といった報道が多い。そして、将来はどちらが勝つのかという結果まで、日本では予想され始めた。結果を予測する際の隠れた目的は、日本は米中のどちら側につくのかという死活の問題も絡んでいるのではないか。

私は中国が将来、米国を圧倒することはあり得ない、と判断している。そう考える理由を以下に述べておく。私が依拠している情報はすべて、中国で生まれ育ち、そして30年間にわたって、研究者として現地で調査してきた経験に基づいている。

本末転倒の使命感が中国のウソの発展を支えた

第1に、中国は国内総生産(GDP)の数字が世界第2位だ、と自他ともに認めているが、実際は水増しされた統計によって得られた数字である。1991年からほぼ毎年のように中国の各地方で現地調査に行ってきたが、その都度、知人の幹部(公務員)はいかに上級機関から言われた「任務を達成」するかで頭を抱えていた。

天災や社会的動乱など、どんな理由があっても、前年度より「成長」していなくてはならなかった。北部中国の場合は旱魃(かんばつ)が数年間続いたり、民族問題が勃発(ぼっぱつ)して生産ラインが止まったりすることはよくあるが、それでも「成長」し続けなければならない。南部には水害がある。それでも、「成長」は幹部の昇進に関わるだけでなく、社会主義中国の「発展」を示す指標とされている。

「中国の共産党政府が13億もの人民を養っている」という独特な使命感を誇示するためにも、「成長」と「発展」は欠かせない。人民が政府と党を養っているとは、とうてい考えられない。この本末転倒の使命感が虚偽の統計とウソの発展ぶりを支えてきたし、これからも変わらない。つまり、中国には米国と対峙しうる充分な国力は備わっていないということである。

近代社会は米国も日本も、そして西洋諸国も、産業革命以来に数百年の歳月を経て、少しずつノウハウを蓄積して発展してきたが、中国はそうしたプロセスを無視しようとしている。共産党の指導部の野心が正常な発展を阻害していると判断していい。