あらゆる経済活動の権利を握っているのは共産党

第2に、中国が口で言っていることと、実際に実行していることとは、すべて正反対であると世界は認識すべきである。このことは、「大国」としての中国に世界をリードできるソフト・パワーがあるかどうかを試す試金石でもあるからだ。

例えば、「米国は自由貿易を阻害している」とか、「中国は世界の自由貿易の促進に貢献している」とか、中国はよく国際会議の場で主張する。ここ数年、トランプ政権が誕生してからは、さらにこうした主張を広げている。ときにはまるで前政権のオバマ大統領の自由貿易促進演説を剽窃(ひょうせつ)したかのような言い方を中国の習近平国家主席は口にする。しかし、事実はむしろ逆である。

まず、中国は国内で自由貿易を実施していない。あらゆる経済活動の権利を握っているのは、中国共産党の幹部たちとその縁故者たちで、一般の庶民が中小企業を起こすのも、厳しい審査が設けられている。国営の大企業は共産党の資金源である以上、中小企業や個人の経済活動はすべて国営企業を支えるために運営しなければならない。

ジャック・マーはなぜ引退せざるを得なかったのか

それでも、個人が持続的に努力してある程度裕福になると、政府からつぶされる危険性が迫ってくる。利益を党に寄付し、経営者も党員にならなければならない。従業員の数も一定程度に達すると、共産党の支部を設け、党の指導を受けなければならなくなる。いわゆる「党の指導」とは、企業の利潤を政府と結びつけることである。経営者個人の自由意思で経済活動が行われていないのが実体である。

世界的なIT企業に成長したアリババの経営者、ジャック・マーの例が典型的だ。まだ、50代半ばという若さで経営権をすべて譲って、引退せざるを得なくなった。引退しなければ、腐敗だの、汚職だので逮捕される危険性があったからだろう。言い換えれば、政府はこれ以上、アリババのようなIT企業が国際舞台で成長しつづけるのに危機感を覚えたからである。