対談司会を終えて

日本を代表する経営者であるお二人の対談の司会をして強く感じたのは、「いい経営者の条件は普遍」とお二人が口を揃えられていた点です。

早稲田大学大学院経営管理研究科教授 入山章栄氏

よく考えると、宮内さんと柳井さんが成長させてきた事業は全く違います。宮内さん率いるオリックスは金融を主業にしつつも、実際には「何をやっている会社なのか」を一言で表しづらいくらい多角的に展開しています。一方、柳井さんのファーストリテイリングは、アパレルSPAの単一事業でグローバル化を進めてきました。業界やビジネスモデルは、正反対といっていいくらいに違います。

しかし、お二人が挙げた「いい経営者の条件」は、ほぼ共通していました。まず、表層ではなく本質を見ること。そして、いかに社会のために事業をするのかということ。「ビジネスは社会の一部にすぎない」(宮内さん)、「海外では、この国のために何をしてくれるのかと聞かれる」(柳井さん)と、表現こそ違いますが、根底にあるものは同じで、お二人とも事業の目的は社会をよくすることだと考えています。異なる業界、異なる事業で大成功された2人が語るこの共通項は、説得力に溢れています。

世界の経営学には、センスメーキング理論という考え方があります。センスメーキングとは「腹落ち」という意味で、優れたリーダーは周囲に「この仕事は何のためにあるのか」を腹落ちさせ、納得させ、ワクワクさせながら巻き込む必要がある、ということです。そのときに、「お金を儲けたい」という目的では周囲を腹落ちもワクワクもさせられません。お二人は常に社会の発展を見据えているからこそ、周囲を巻き込んでこられたのかもしれません。

一方で私には、お二人の考え方の多少の違いも垣間見えました。それは「志の立て方」です。柳井さんは、将来の大きなビジョンを描き、そこに向かって突き進むビッグドリーム型です。一方、宮内さんは「目標がその都度変わった」というように、会社の成長に合わせて目線を上げていくタイプ。お二人とも志を持っていますが、その立て方が違うのです。

いま世界の潮流になりつつあるのは、柳井さんのビッグドリーム型でしょうか。特にシリコンバレーは、その傾向が強い。シンギュラリティ大学のレイ・カーツワイルは「ムーンショット(困難だが、実現すればインパクトが大きい挑戦)で大きな社会問題を解決しよう」と言っていますし、「人類を救う」というビジョンを掲げるイーロン・マスクもその典型でしょう。

ただ、宮内さんのようなアプローチで成長している企業も少なくありません。何よりオリックスがそうですし、ピボットを繰り返して大きくなったDeNAも該当するでしょう。そう考えると、どちらも優劣はつけがたい。おそらく人や業態によって向き不向きがあるのかもしれません。読者の皆さんも、お二人の主張の共通項は心に留めながら、「自分は柳井型なのか、それとも宮内型なのか」を考えてみるのもいいかもしれません。

▼入山教授の3つの視点
●いかに本質を見極めるか
●社会のためにどう役立つか
●腹落ちする目標を立てられるか

宮内義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年、兵庫県生まれ。関西学院大学商学部卒業。ワシントン大学経営大学院でMBA取得後、60年日綿実業(現双日)入社。64年4月オリエント・リース(現オリックス)へ入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO、2000年代表取締役会長・グループCEO、14年よりシニア・チェアマン。著書に『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』など。
 

柳井 正(やない・ただし)
ファーストリテイリング 会長兼社長
1949年、山口県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、ジャスコ(現イオン)へ入社。その後、72年父親の経営する小郡商事に入社。84年カジュアルウエアの小売店「ユニクロ」の第1号店を広島市に出店し、同年社長に就任。91年に社名をファーストリテイリングに変更。2002年にいったんは代表取締役会長となるも、05年9月に再び社長に復帰。著書に『一勝九敗』『成功は一日で捨て去れ』、解説に『プロフェッショナルマネジャー・ノート』など。
 

入山章栄
早稲田大学大学院経営管理研究科教授
専門は経営戦略、グローバル経営。慶應義塾大学を卒業後、ピッツバーグ大学経営大学院博士課程修了(Ph.D.)。三菱総合研究所研究員、ニューヨーク州立大学バッファロー校助教授、マクロミル社外取締役などを務める。
 
(司会=入山章栄 構成=村上 敬 撮影=市来朋久)
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