日本の経営はワンラウンドぐらい遅れている

【入山】話題を「人」から「企業」に広げてみたいと思います。お二人は、いまの日本企業をどのように見ていますか。

【宮内】日本の経営はワンラウンドぐらい遅れているような気がしますね。

【柳井】いや、もっとです。スリーラウンドは遅れてる。

【宮内】アメリカ的な経営が正しいという風潮が長くあったでしょう。アメリカの水準に追いつくために、経営者は冷徹で、計数管理ができて、なおかつマーケットが評価する結果を出さないといけないと。それを日本企業にすべて持ち込むと、日本的なよさが消されてしまって、ただでさえ遅れている日本的経営がより遅れてしまう。本当は日本的経営に欧米のいいところだけを足していけばいいのに、それをやらないのです。

たとえば日本の企業はやっぱりチームプレーに優れていますよ。チームプレーのなかのいちばん重要な要素は、それこそ野中さんの暗黙知。ところが昨今、経営を論じているのを聞くと、暗黙知を否定して、なんでも数値化しようとしてしまっている。それはやっぱり違う気がしますね。暗黙知を全否定するのではなく、アメリカ流を適度に混ぜることがベストソリューションでしょう。

【柳井】日本人の多くは精神構造がすごく形式的ですよ。それで、すごくレガシーが入る。古い会社は、もうレガシーの塊。それに、経営者のバトンタッチをやっているのもよくないですね。バトンタッチをやると、前任者を全肯定するか全否定するかしかないんですよ。うまく組み合わせていけばいいのに、極端になってしまう。社長の在任期間が短すぎるのもいけないですね。最低10年はやらないとわからないですよ。

それと、最終的にトップに創業者精神がないとダメです。何が起きるかまったくわからない時代でしょ。そのときに創業者なら、どういうことを言っていたのかと考えないと。僕が参考にしたのは、戦後の本田宗一郎や松下幸之助の経営。戦前の経営者も含めて成功している人はみんな一緒で、原理原則を持っています。たとえば「真・善・美」みたいに、人間の基本的な価値観みたいなところに寄るんですよ。僕もそれを若いときに知っていれば、もっと成功したんじゃないかと思います。