松下幸之助と通じる人との交わり方
【柳井】僕は最近、オン・ザ・ジョブ・トレーニング以外はダメだって言ってます。実務がなくて知識だけだと、わからなくて想像できないんだもん。わが社の人間も、すごくよく知ってるのに結局できない人間が多いですよ。宮内さんや僕みたいに、愚直に1つのことを追求する人は少ない。もうあっち行ったりこっち行ったりで、集中力がない。
【入山】手厳しいですね(笑)。では宮内さんはどのような人に仕事を任せようと思いますか。
【宮内】いろいろな世代の社員と付き合いがあるけれど、人間は変わりますね。大事なのはその人の実力より少し上の仕事を任せること。能力が100の人なら120の仕事、50の人なら60の仕事です。人はよいほうにも悪いほうにも変わりますが、こういうやり方をすると悪くなるより、だんだんよくなる人のほうが多い気がします。
【柳井】それは宮内さんのそばにいるからですよ。やっぱり見本がそばにいるのといないのとでは、えらい違いです。だから、やっぱりいい人と付き合わないといけない。松下幸之助も「運がいい人と付き合え」と言ってますよね。ぜんぶ運ですから。
ここからは僕の持論ですが、運には準備と計画が要るんです。運がよくても、計画していないことはほとんど実現できません。「これ、チャンスだな」とピピッときたときに、そこに集中して突入できるかどうか。準備と計画なしに、それはできない。
【宮内】チャンスは生ものですからね。
【入山】野中郁次郎先生の『直観の経営』という本に、柳井さんのことが書かれていました。野中先生は「本質的直観」という言葉を使われていて、柳井さんにはそれがあると評されていましたよ。
【柳井】それは野中先生がよく言ってる「暗黙知」でしょうね。言葉にはできないけど、過去の経験や学んできたことからピピッとくることがある。ここで言う「学ぶ」は、文章とか座学ということじゃなく、実践ですよ。失礼なことを言いますが、ドラッカーのような特別に優れた経営学者は別にして、ほとんどの経営学の先生の書いていることは表面的でね。MBAで知識を身に付けても、そこは養われない。
【宮内】そうですね。ピピッとくるといっても、正しく直観が働かないと成功しません。じゃあ、どうすれば正しく閃くかと言えば、それまでの蓄積です。先ほど私は「事業選択は勘だ」と言いましたが、それは宝くじが当たるようなものではなくて、経験を蓄積した結果、自然とやるかやらないかの決断ができる。まさにそこが経営者の力じゃないかと思います。