市場環境が激変するなか、40年にわたって会社を大きくしてきた柳井氏と宮内氏。会社を持続的に成長させ、海外で成功するために何をしてきたのか。早稲田大学の入山章栄教授をコーディネーターに2人が本音を語る。

答えは海外での3つの問いにある

【入山】変化の激しい時代が訪れています。それに合わせて経営者やビジネスパーソンに求められるものも変化していく可能性があります。お二人は、これからどのような人材が経営者として相応しいとお考えですか。

オリックス シニア・チェアマン 宮内義彦氏

【宮内】経営者に求められるものは、大きく言って2つでしょう。一つ目は、経営の専門知識。経営は複雑で、相応に高いレベルの専門性を持っていないと、とても会社を存続、成長させられません。それから2つ目は人間力。何か物事を成そうとするときは、やはり人間同士でやるわけですから、人を引っ張っていける人でないと、いくら専門知識を持っていても、誰もついてきてくれません。当たり前の話ですが、この2つが備わっていないと、どうしようもない。

そこにプラスしていま求められるのは、日本らしさでしょうか。いくらグローバルと言ったって、日本発という出発点がないと無国籍です。グローバルの時代だからこそ、日本の文化やフィーリングといったものが重要になるのではないか。最近、そう考えるようになりました。

【柳井】海外に行くと、いつも3つの問いを突きつけられますね。まず、「あなたはどこから、何をしに来ましたか」。これは当たり前の問いで、僕は「日本です。洋服を企画して作るために来ました」と答えます。

次の問いは、「あなたはこの国のためにどんなよいことをしてくれますか」。ただ金儲けだけだと、誰も歓迎してくれない。だから僕はそれぞれの国で「ビッグビジネスにしたい」と言っています。アパレルは生活必需品ではあるけれど、非常に零細企業が多い業界です。僕は最低でも1000億円ないと事業と言えないんじゃないかと思っているので、それぞれの国でビッグビジネスにすることが必要だと説いています。

それから最後の問いは、「あなたはいままで世界のために何かいいことをやってきましたか」。海外に行って僕を信用してくれと言っても、それまでに積み重ねてきたものがないと信用されません。いまはインターネットの時代だから、その企業が過去にどんなことをやってきたのかがすぐにわかります。それを見て、海外の人も「この企業だったらこんなことをやってくれるんじゃないか」と期待する。その期待がブランドですよ。経営とは、そのお客様に期待されていることと実際にやっていることをイコールにすることだと言ってもいい。イコールが何年間も続いたら、ビッグブランドになるわけです。

【宮内】業種が違うから表現は異なりますが、考えていることは同じだと思います。私は、企業は社会に奉仕するために存在すると考えています。いわば、社会のなかの経済部門担当。われわれの生活に役に立たないかぎり、どんなビジネスをやっても意味がない。

【柳井】おっしゃるとおりです。僕が特に若い起業家に言いたいのは、あなたの金儲けだけやってどうするのということ。そんなの社会の無駄です。