イチローからビジネスマンが学ぶべきこと

【宮内】どのように表現したらいいのかわかりませんが、しいて言えば勘のようなものですね。頭で考える分には絶対うまくいくと思うのですが(笑)、手をつけるには何か大きな違和感があった。

【柳井】もう感覚ですよ。大きな利益が挙がるということは、法律上の問題はなくても、常識から考えたら不当な利益かもしれない。そういうところに気がつく人じゃないとダメです。

【柳井】僕が本当に幸運だったと思うのは、アパレルや小売りは昔からある産業なので、優秀な人が新規であまり入ってこなかったこと。そのあたりがうまくいった1つの要因です。みんな規模が小さいんですよ。僕もいまは大きなホラを吹いていますが、若いころは、自分は一生やっても30店舗くらいつくって、30億円くらいで終わりだろうと思っていたし。

【入山】そうだったんですね。では、柳井さんはどこで「大きなホラ」に切り替わったのですか。

【柳井】現実から考えるのではなく、夢から考えるようにしたんです。これだけ頑張っているのに、どうして成長しないのか。原因を考えたら、そうか、行き先を決めてなかったなと。

【宮内】柳井さんは負けず嫌いでしょ。たぶんそれが大きい。

【柳井】いや、宮内さんもそうだと思いますが、負けず嫌いじゃないとダメですよね。スポーツ選手でも何でも、負けず嫌いじゃないと超一流にはなれない。きっとイチローだってそうでしょ。

【宮内】でも、彼は入団したときはまだ一流じゃなかった。なぜ一流になったのかというと、粘りですね。野球が大好きなんですよ。だから四六時中練習していることが苦にならない。本人は、「努力ではなく当たり前のことをした」と思っているから、伸びたんです。

【柳井】イチローは、成長することが面白くなってきたんじゃないかなあ。スポーツでも事業でも、成長しないと面白くないですからね。あと、彼は小さいことによく気がつくでしょ。バットやシューズへのこだわりとか、研究熱心じゃないですか。ストイックなスタイリストで、あれくらいやらないと超一流にはなれない。経営者にとってすごくいい見本だと思います。

【入山】もしかして、イチローが会社を経営したら、うまくいくかもしれない?

【宮内】それはやめたほうがいい(笑)。彼の専門性は野球ですので。

【柳井】僕らが野球をやっても成功しないのと一緒だよね。通じるところはあっても、やっぱり才能がないとダメだから。でも、確率からいくと、経営のほうがずっと成功しやすいですよ。ただ、成功は簡単にできても、それを持続するのは難しい。世の中は変わっていくから。