それでも成功を持続できたワケ

【入山】なるほど。では、お二人はどうしてそれでも成功を持続できたのでしょう。

【柳井】やっぱり小さいところにぜんぶ気をつけるからですよ。それと「人間とは何か」という根本的なことをよく考えることが大事。そうしていると、いろんな人と接するときに気がつくことが多い。

【宮内】ビジネスは人間の営みの一部であり、ぜんぶ人間同士の接触のなかで実現するわけですよ。人間に対する理解とか、生きることへの共感とか、そういうものがないと、触れ合っても何も心に浸透していかない。CEOが素晴らしいスピーチをしても、たいていは、あんなの言葉だけじゃないかと言われる(笑)。

【柳井】言葉に頼らないといけないのですが、言葉に頼りすぎたらダメですよね。よく言われるように、経営者は後ろ姿で導かないといけないし、言ってることと実行していることがイコールにならないかぎり、信用につながらない。ビジネス誌を読んでも、「またこいつはいい加減なことを言ってるなあ」という経営者がいますよね。いや、宮内さんは違いますよ(私)。宮内さんも僕も、実行したんです。それで反省もした。だからいまがあるんじゃないですか。

【入山】「人間の器」を考えるうえで、ほかにリーダーが備えておくべき条件はありますか。

【柳井】危機感を持つことかな。経営に、安定・安心・安全はない。経営者をやっていたら、いつ潰れるかまったくわからないという危機感を持たないと。

とは言っても“深刻”になるのはダメですよ。真剣と深刻はぜんぜん違います。経営は真剣勝負でやらなきゃいけない。でも、深刻になったら誰もついてこないですから。頭がいい人は、けっこう深刻になるんですよ。でも、それじゃ困るんです。

【宮内】「真剣にやれ、深刻になるな」は名言ですね。たしかにトップが難しい顔をして眉間にしわを寄せていたら、そんな会社はうまくいかない。

【柳井】言葉遊びみたいなものですけどね。でも、若いころはそういうことに気づかないんですよ。僕も宮内さんも、うまくいかなかった時期は、真剣じゃなくて深刻になっていたんじゃないかな。

いまだって僕は明るくやっているつもりなのに、うまく伝わらないことはありますよ。僕が真剣にアドバイスすると、受け取るほうは「叱られている」と錯覚する(笑)。その人のことを思ってアドバイスしているんだけど、相手は心を閉ざしていて、拒否してしまうんだよね。だから相手が心を閉ざさないように、明るく楽しくやらないといけない。それは経営者の役割です。