2010年代は精密機械産業にとっても市場環境の激変期だった。そのなかにあってコニカミノルタは、ヨーロッパにおける2つの変化を追い風に変え、グローバル企業としての地位を保っている。

景気後退の嵐の中、想定外だった躍進の条件

2010年代のコニカミノルタのヨーロッパでの躍進は、どのようにして生じたか。これに先だってコニカミノルタは、デジタル・カラー複合機の開発と生産で先行していた。先行できたのは、旧コニカと旧ミノルタが経営統合を行い、消費者向けとして名の知れたカメラ事業を売却し、集中投資を行った成果である。

もちろん、経営統合だけで、コニカミノルタのヨーロッパでの躍進が始まったわけではない。カラー複合機は高価である。同社の躍進が始まる2010年前後には、リーマン・ショック後の景気後退の嵐がヨーロッパ市場を吹き荒れていた。先端を行くとはいえ、いかんせん機器の価格が高すぎる。販売環境は向かい風。危うい状況にコニカミノルタはあった。

(左)デジタルカラー複合機の第1号機(ミノルタ時代)CF70。(中央)2010年代の欧州コニカミノルタの躍進を支えたデジタルカラー複合機のbizhubシリーズ、そのデザインのベースとなったC353。(右)最新鋭機のbizhub C360i(写真提供=コニカミノルタ)

しかし躍進の条件は、別のところから生まれた。

そのひとつがマネージド・プリント・サービス(MPS)である。MPSは、複写機・複合機におけるコンサルティング営業である。グローバル大企業は、国境を越えて多くの生産や販売の拠点をもつ。そこで使われる複写機・複合機のトータルな配置と運用方法を見直せば、場合によっては25%ほどの経費削減を実現できるという。

MPSを使えば、トータルでの効率化を提案しながら、カラー複合機という高価な先端機器を導入することをピンポイントで提案することが可能になる。

「トータルコストを低減しながら、御社の営業資料のアピール力を高めませんか」

こうした提案ができるMPSは、特に先端のカラー複合機に強みをもつコニカミノルタに適した営業手法だった。

後追いで出発したサービスを強みに転じる

MPSの出現は、コニカミノルタにとっては思わぬ幸運だった。だが、コニカミノルタという会社が、このMPSという新しいサービスの導入をリードしたわけではない。

複写機・複合機産業にあってMPSの先陣を切ったのは、アメリカのゼロックスである。ゼロックスはMPSの提供を早くも2000年ごろに開始し、競合他社も2000年代の後半からこの新しいサービスを導入するようになっていく。コニカミノルタもこの後追いの中の1社だった。