SNSで「マツコ絶賛」と書かれた広告を見たことはないだろうか。それはもしかしたら本人に無断で画像を加工し、あたかもその商品を推薦しているかのように見せかける「フェイク広告」かもしれない。なぜそういった悪質な広告が蔓延する事態となったのか――。

※本稿は、NHK取材班『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

日本テレビ「マツコ会議」の公式サイトには【お知らせ】として悪質広告の注意書きが書かれている

インスタに「マツコ絶賛」の広告が現れた

東北地方に住む、大学生の茜さん(仮名・18歳)が、SNSのインスタグラムに表示された「ある広告」を見たのは、2018年12月のことだった。

フォローしている友人や好きな女優が投稿した写真が次々と表示されるタイムライン上に現れたその広告は、あるダイエットサプリを宣伝していた。広告をクリックすると、新たなサイトが開いた。人気タレントのマツコ・デラックスさんの驚いた表情の下に、「○○(商品名)すげー!!」と字幕が付いている、テレビで取り上げられたかのような画像が現れ、ダイエットに効果があるという商品の特徴が紹介されていた。

商品は定期購入で、月々6980円。少し高いと感じたが、払えない額ではない。初回は数百円の送料だけで、「30日間解約保証」と書かれていた。「試してみて、自分に合わなかったら解約できる」と思い、ネットで定期購入の手続きを済ませた。茜さんは購入を決めた理由についてこう話す。

「マツコさんが番組で取り上げて、驚いている雰囲気だったので、普通にテレビ番組で紹介された商品なのかなと思いました。たまに芸能人の名前を1文字隠して紹介して、怪しい商品を売る会社があるとは聞いていたんですけど、その広告はマツコさんの顔が普通に映っていて。だから信用しました」

番組の放送画面を無断で加工した「ニセ広告」だった

あれっ、おかしいかも……。そう感じたのは、定期購入したサプリが手元に届いて少したってからだった。サプリを飲み始めたものの、どうも自分には合わないと思った茜さんは、定期購入を解約しようと、コールセンターに電話をかけた。電話はつながったが、オペレーターは出ず、「混み合っているので、このままお待ちください」という録音されたアナウンスが聞こえてきた。さらに「待っている間も電話料金がかかる」とアナウンスされ、気持ちが落ち着かない。少し待ってもオペレーターが出ないので、電話をかけ直す。しかしまたアナウンスばかりで一向にオペレーターは出ない。それが繰り返されるだけだった。

心配になって商品名をネットで検索すると、SNS上に「電話がつながらず、解約できない」という声が次々に見つかった。茜さんはそこで初めて、マツコさんがサプリに驚いているのは、うそではないかと考えるようになった。

調べてみると、マツコさんの画像の元となっていたある民放の番組が、公式サイト内で、番組で紹介されたとかたった「悪質広告」として「番組の放送画面を無断で加工・引用した事実と異なる広告」への注意を呼びかけていた。このダイエットサプリの広告はニセ、つまり「フェイク広告」だったのだ。