北アイルランドの国境問題をめぐる忌まわしい歴史が再現しかねないと誰が考えただろうか。
アイルランド島の北側にある北アイルランドはイギリスの一部だが、同じEU加盟国であるアイルランド共和国との国境に検問を置かず、ヒト・モノ・カネの往来を自由にしてきた。しかし、ブレグジットとなれば北アイルランドとアイルランドの国境管理が大きな問題になってくる。
国境管理が厳格化されて、ヒト・モノ・カネの自由往来ができなくなれば、アイルランド島は再び分断される。「イギリスに分捕られた北アイルランドを取り戻して、祖国を統一せよ」という勢力の台頭を招き、血生臭いことにもなりかねない。
EUを離脱すれば「イングランド・アローン」となる運命
ブレグジット後に国境管理を厳格化しないことで、イギリスもEU側も意見は一致している。しかし、「従来通りの国境管理をしている限り、EUの言い分を聞かなければいけない。それではブレグジットの意味がない」とイギリス国内の離脱強硬派は主張するし、EU側にも「離脱しておきながらイギリスが北アイルランドを通じてEU市場にアクセスできるのはおかしい」という意見がある。
北アイルランドを特別扱いするスキームがさまざま出てきているが、北アイルランドを中途半端な状況に置くことは、独立の気運を高めてユナイテッドキングダムの崩壊につながる、との見方も出ている。
一方、スコットランドは14年にイギリスからの独立の是非を問う住民投票を行い、僅差で独立は否決された。スコットランド自治政府のスタージョン首相は「イギリスがEUを出たら、もう1度住民投票を行う」と公言していて、これが実現すれば、今度は独立賛成派が勝利するのは確実。イギリスがEUのメンバーでなくなれば、前回の国民投票と違って、スコットランドのEU加盟に反対する国はいないからだ。
ユナイテッドキングダムから北アイルランドが抜け、スコットランドが抜ければウェールズも独立運動を始めるだろう。スコットランドに先を越されるのは、ウェールズの人々は我慢できない。
つまり、EUを離脱すればUK(連合王国)はイングランド・アローン(イングランドだけ)となる運命に向かうのだ。