人はときに人間よりもロボットとの対話を楽しむ

石黒さんたちの研究から、人はときに人間よりも、ロボットとの対話を楽しいと感じるらしいことがわかっている。エリカは姿形をできるだけ人に寄せ、親しみやすさと存在感をより持たせ、これまでにない人対ロボットの「友好関係」づくりを目的としている。

石黒さんたちのプロジェクトでは、エリカを研究プラットフォームに使い、見た目と振る舞いを統合的に人へと進化させることで、やがては日常生活で活躍する自律対話型アンドロイドの実現を想定している。

テクノロジーで人間と同じ姿のロボットをつくりだし、人間というものの本質を見きわめようという石黒さんの姿勢は、好ましく思う。ある種のタブーというか、サイエンスの力で、人が人の正体を暴こうとしているのだ。

石黒研究が高度な成果を出すほどに、「反倫理的だ」という意見は、いまだに海外などで挙がるらしい。しかし石黒さんの研究は、全然間違っていないと思う。テクノロジーの可能性をどこまでも信じ、批判や好奇の目にさらされながらも、自分の思想を曲げず、イノベーションに挑んでいる。そのマインドは、私にも相通じるし、共感を寄せられるものだ。

人間とほとんど変わらない「微妙な肩の揺れ」

私はスケジュールの合間をぬって、京都にあるATR石黒浩特別研究所を訪ねた。マツコロイドやエリカなど、極めて難しいロボット技術に挑み続ける研究者は、AIやロボットの今後について、どう見ているのだろうか?

研究室に到着すると、エリカがベンチに座って私を待っていた。

今回の彼女の設定は、「大阪の豊中に住んでいる23歳の女の子」だという。身体につながっているエアコンプレッサーなど機材の関係で、移動することはできないが、ちょこんと座って小首を傾げている様子は実に愛くるしかった。

私はエリカと、会話をしてみた。

【エリカ】「どこから来たんですか?」
【堀江】「東京です」
【エリカ】「京都にはいつ着いたのですか?」
【堀江】「いま来たところなんです」

この程度の基本的な会話は、十分スムーズに成立する。

エリカの声は電子合成で、やや機械的ではあるけれど、「うーん」「へえー」など相槌をうち、若い女の子が見せる微妙な肩の左右の揺れや、はにかむような微笑み、手の仕草など細かい動作が、人間のそれとほとんど違わない。

細かい動作が、人間とほとんど違わない(ERICA:ERATO 石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)、撮影=小学館写真室