医療・介護提供体制の「選択と集中」を

働き方改革論議で、医師や看護師の過重労働が問題になっています。誤解を恐れずに言えば、今の日本の医療介護提供体制は「戦力の逐次投入」と「有限資源の薄まき」、そして「ミスマッチ」状態です。現場の医療・介護従事者があれだけ働いているのに、全体としては効率的なサービス提供が実現できていない。このままでは増大する医療介護ニーズを支えることは難しい。限りある人的・物的資源の効率的利用という観点から思い切った「選択と集中」が必要です。

具体的には、疾病構造・患者像の変化に合わせた病院機能分化の徹底。急性期病院では資源の集中投入で早期治療・入院期間短縮を目指し、退院後は地域医療・在宅介護で支える。治療から生活支援へ、施設から在宅へ、医療から介護へ、病院・施設から地域・在宅へと医療介護全体の人的・物的資源を大きくシフトし、「地域完結-ネットワーク型」の提供体制を構築する。

人的資源の効率活用も欠かせません。専門職の機能分担を見直して、専門職は専門職にしかできないことに集中してもらう。というのも、労働人口が減る中で、患者の増加に比例して医師や看護師などの専門職の数を増やすことは不可能なのですから。

医療・介護提供体制改革に取り組むのはとても地味でしんどい作業です。政治家にとっても「不人気で有権者にウケない、地味すぎる政策」に違いありません。そんな中で、自称「改革者」たちが唱える「予防で医療費は減らせる」「取り組みが進まないのは既得権益やしがらみを持つ者が抵抗するから」という主張は、心地よく響くことでしょう。

しかし実際には予防で医療費抑制などはできず、真の改革の機会は失われ、総医療費はかえって増大します。十分な給付ができなくなり、「医療格差」が生まれ、制度への信頼・社会の統合が失われる……。過去の経験はその可能性を示唆しています。

政策とは客観的事実と大局を見て組み立てるものであり、制度を担う者が負っているのは「しがらみ」ではなく「責任」、それも「結果責任」です。その重みを理解しないものが無責任な言説を展開して、物事がうまくいったためしはないのです。

霞が関の政策担当者は結果に責任を負っています。ぜひ、専門集団としての矜持と自覚、そして使命感をもって事に当たってほしいと思います。

※本稿は個人的見解を示したものであり、外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係ありません。

香取照幸(かとり・てるゆき)
元・内閣官房内閣審議官・駐アゼルバイジャン共和国大使
1956年、東京都生まれ。東京大学卒。厚生労働省で政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。
(撮影=村上庄吾 写真=iStock.com)
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