料理をしない人に作ってもらえる本

また、ネット上には無料レシピサイトが数多く存在し、動画で工程を見せる“動画レシピ”もすでに定着した。これらが料理本業界を脅かす存在になっているのだ。

上田淳子『並べて包んで焼くだけレシピ』(主婦と生活社)

「料理本にも読者の高齢化の波が押し寄せています。そのため、どこの会社も“料理をしない人”への間口を広げる戦略をとり、その層に向けたものと、上級者向けという2極化が進んでいる。動画レシピに慣れている若年層の中には、レシピの文章すら読みたくない人もいます」

前出の『並べて包んで焼くだけレシピ』も、小田さんが、料理をしない人にどうしたら作ってもらえるかを考えたことがスタートだ。実物大の材料が描かれた型紙を手にした読者からは、「よくレシピにある『少々』って、このぐらいの量だったんだ」という反応が見られたという。

「適量」「少々」でつまづかないように

小田さん自身、「10年前に料理本の編集部に異動になるまで、料理を作ったことはありませんでした」という。現在ではお菓子もお手の物だが、そこに至るまでは毎日仕事帰りに研究と実践を重ねた。特に家庭料理は調理方法や時間、材料や調味料の分量を守れば、レシピの再現性は高い。そういった料理の化学的な面白さを実感し、読者にも伝えたいと思っていた。

「そのため、今までは『レシピに細かく書いたのだから、文字を読めばわかるでしょ』という気持ちがどこかにあったんだと思います。SNSでの『並べて包んで焼くだけレシピ』の反響を見ているうちに、料理をしない人にとっては、『適量』『少々』『水をひたひたに』といったレシピ独特の言い回しが引っかかる箇所なんだと気づきました。一度ひっかかると、心が折れてその先に進まない。実際、そういった声を聞いて、レシピを読者に伝える努力を怠っていたなと反省しました」

『並べて包んで焼くだけレシピ』より

実際、『並べて包んで焼くだけレシピ』を買った人からは、「レシピを読みこむ必要がなく、絵を見れば一目でわかるため、『子どもと作ったら楽しそう』など、多くの好反応がありました」という。これは紙の本ならではの特長だろう。

「もっと多くの人に、料理は楽しいんだと知ってほしいんです。だから『魔法のケーキ』や『並べて包んで焼くだけレシピ』のように、料理やお菓子作りを始めるきっかけになる本をつくっています。それって、自分で好きなものを作って食べられる、手軽な幸せの獲得方法だと思うんです」

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