東大ではなく海外の大学を選ぶ生徒も多い渋幕

渋幕のサクセスストーリーは現理事長・校長である田村哲夫氏の教育方針がつくりあげたと断言してよいだろう。田村氏は東京の名門男子校・麻布出身であり、渋幕開校時は麻布の理事も務めていた。麻布の「自由」を共学校である渋幕に取り入れただけではなく、21世紀に向けて世界で活躍できる人材(国際人)育成にも努め、生徒たち一人ひとりの個性を輝かせることを目標にした教育をおこなった。

渋谷幕張中高のウェブページより

同校の教育目標は「自調自考」。自らの体で調べ、自らの心で考えるという意味であり、それが建学の精神にもなっている。同校に在学している中学生の男子は学校の雰囲気を次のように語る。

「校則はほとんどないです。高校生の中には髪を染めている人もいるくらいです。とにかく自由な雰囲気で、生徒がやりたいことをとことん先生たちが応援してくれます。たとえば、『学校が廃棄する予定になっているPCを全て回収して、それを材料にスーパーコンピューターを作りたい』と提案した科学部の人がいたんです。普通はそんなの却下されちゃいますよね。でも、渋幕の先生たちは『じゃあ、やってごらんよ』と背中を押してくれるんです」

この話から生徒一人ひとりの個性を最大限に尊重しようという学校側の姿勢が見えてくる。

そして、個性豊かな同校の生徒たちが目を向けるのは日本の大学だけではない。昨春、同校から海外大学合格者数は35人。世界で活躍する国際人の育成という同校の掲げる目標に合致する結果であることが分かる。

実際、同校の英語授業のレベルは相当高い。英会話の授業はオールイングリッシュ。英語によるプレゼンテーションをおこなう場も数多く設けられていて、同級生の流暢で熱意あるプレゼンを聞いて、刺激を受ける人も多いという。

「自由」な雰囲気の同校だが、中高一貫カリキュラムは生徒たちの学力をどう伸ばすかという観点に貫かれた秀逸なものだ。中高の6年間をAブロック(中1・2)、Bブロック(中3・高1)、Cブロック(高2・高3)の3段階にしていて、多様な進学ニーズに応えている。

また、1年ごとに分厚い「シラバス(学習科目の内容と解説)」が用意されていて、これが学習の羅針盤になっている。こうしたきめ細やかさは既存の名門校にはあまりみられなかった。だからこそ急成長を果たしたのだろう。

全国屈指の難関校、灘・東大寺学園レベルの「西大和学園」

一方、関西の動向を見てみよう。昔から私学のトップに君臨しつづけているのは男子校の灘(兵庫県神戸市)である。そして、灘に次ぐ位置に着けているのは東大寺学園(奈良県奈良市)である。両校は全国屈指の進学校だが勉強一色の校風ではない。学校行事や部活動が活発な自由な空気が流れている。だから、パワーのある、何にでものめり込むタイプの生徒が多いらしい。

そして、近年、この「2強」に迫る人気を博している学校が、共学校の「西大和学園」(奈良県北葛城郡)だ。開校は1988年とこちらも比較的新しい学校である。設立当初はとにかく京都大学の合格者数を増やすことに学校側は腐心していた。ときには、京都大学の中では比較的合格ラインが低いとされる農学部を大量に受験させ批判されたこともあった。しかし、昨春は東大に30人、京大に57人と学部に偏りのない高い実績を挙げている。