かつての「不良学校」は、いまや一流の進学校
数年前、タクシーに乗っていたときに60代くらいの運転手から職業を尋ねられた。「中学受験を専門にしている塾講師です」と返答すると、運転手は懐かしそうに話をした。
「俺のいた学校だってずいぶん難しくなったって聞いたもんなあ。俺が在学していた当時は、近隣から『不良学校だ』って嫌われていたんだよね。ま、実際塀を乗り越えて学校を抜け出すヤツとか普通だったし、ロクデナシが集まっていたよ(笑)」
ちょっと興味をそそられたわたしは、「どちらの学校ですか」と聞いてみた。「攻玉社だよ」と運転者は答えた。中学受験の世界で、現在、攻玉社(東京都・品川区)は難関校の一角に位置する男子進学校である。最近は東京大学にコンスタントに10数名~20数名の合格者を、早慶には約200名の合格者を輩出しつづけている。「四谷大塚結果80偏差値一覧」(2018年入試)では偏差値55(2回目入試は偏差値61)となっている。
しかし、かつての攻玉社はいまの姿とは大きく異なっていたのである。
30年で激変した「学校勢力図」とは
「中学受験」は、以前は限られた子どもが挑む世界であった。しかし、いまの小学生の親世代は中学受験に対する心理的抵抗が少ないとわたしは考えている。
それは一体なぜだろうか。
1990年度前後に「中学受験ブーム」が到来した。この時期は、小・中学校の学習指導要領が改訂され、そこに盛り込まれた新学力観への賛否が渦巻いたり、大学入試センター試験が導入されたり、公立中学校でいわゆる「偏差値追放」(偏差値による進路指導や業者テストの禁止など)が起こったりした。揺れ動く公教育に対して不信感を抱いた結果、主として首都圏において私立中学入試に挑む子どもたちの数が激増した。
当時、中学受験を経験した世代は、現時点で40歳前後である。つまり、いまの小学生の親世代である。自身も中学受験を選択したのであれば、当然わが子も同じルートで……と考える親が多くなるのは自然なことだろう。
しかし、約30年前に親が受験をしたころの感覚で、いまの私立中高一貫校を評価しようとしてはいけない。なぜなら、この30年で首都圏の私立中高一貫校の「勢力図」は激変しているからだ。
それは冒頭の「攻玉社」の例でも理解できるだろう。