キリンビールのなかでも最も高い生産能力を誇る横浜工場。異動してきたばかりの工場長が、若手工員が自主的に動いて力をつけられる職場づくりに奮闘する。
「愛されキャラ」の工場長がつくる若手の顔が輝く職場
いい顔で働いている人が多い――。キリンビール横浜工場(神奈川県横浜市)を見学して一番印象に残ったのは、若手工員の穏やかながらも溌剌とした表情だった。工場長や部外者である僕が見ているから多少は「演技」が入っているかもしれない。でも、それが無理な演技なのか、普段の延長なのかぐらいはわかる。彼らは「ここが自分の仕事場だ」と納得して働いているのだ。
私事になるが、僕は9年前に某アパレルショップで店員をしていた。店長を目指してがんばっていたが、やる気は常に空回りして、「こんなはずじゃないのに」という絶望を胸の底に隠しながら働いていた。
1年後に退社を決めたとき、上司は言った。「大宮、おまえは入社してからずっと冴えない表情をしていた。辞めると言ったいまが、一番いい顔をしているぞ」。虚しかった。
この挫折経験で一つだけ学んだ。大切なのは輝かしい仕事に就くことじゃない。自分の顔が自然と輝くような職場で働くことなんだ、と。これって常識ですか? でも、そんな職場がいまの日本にいくつあるだろうか。
だからこそ、僕と同い年ぐらいの工員が生き生きと働いている横浜工場を嬉しく感じた。トップリーダーである工場長に会ってみたいと思った。
工場長の石井康之氏(52歳)は、俳優の細川俊之をおとなしくしたような風貌だ。名刺交換も淡々としている。派手な笑顔や握手などはない。工場長と紹介されなかったら、通りすがりのおじさんだと思ってしまっただろう。
「確かに『工場長!』という威圧的な感じはありませんね。大らかでナチュラルな人です。細川俊之にも似ていますが、私たち社員は関根勤みたいだと話していますよ。本人は昔、巨人軍にいたデーブ・ジョンソンに似ていると言っています」
工場の女性広報担当者が楽しそうに教えてくれた。石井氏が「愛されキャラ」であることは伝わってくる。果たして、どんな考え方の持ち主なのだろうか。以下、石井工場長と元ダメ店員の僕との会話である。