国家プロジェクトとしてポジティブ心理学を導入している国もある
ポジティブ心理学とは「よい人生」について科学的に探究し、その実現に向けて心理学的介入を試みていく学問だ。1998年に当時の米国心理学会会長でもあった米ペンシルベニア大学のM・セリグマン博士が創設した。
「よい人生」という表現から誤解が伴ってもいけないのだが、同博士が強調することとして、ポジティブ心理学の課題は「既存の競争主義や成果主義を否定することなく、個人と制度両面への有機的アプローチを図りながら、ウェル・ビーイング(いわゆる幸せや生き甲斐)を育んでいく」ことにある。
つまり、ポジティブ心理学は現状の改善を目指すが、社会自体の改革を目論むものではなく、その実践は現行の制度と共存する形で導入される。職場の文脈で言えば、従業員個人および組織の生産性を上げると同時に、仕事への満足度を高めることが主眼となるが、生産的であることと満足感を味わうことが排他的な関係とはならないような価値志向の創出も焦点となる。
具体的には図1をご覧いただきたい。ポジティブ心理学が主な対象とするのは同図の右半分の、労働人口にして大半の人々が関係する(あるいは関係せざるをえない)領域に属する事柄だ。たとえば個人レベルでは、いかにいきいきと生きるか、組織レベルでは、いかに組織を繁栄させるか、非の打ちどころのないところまで仕事の質を高めていくかといった内容である。