確かに、今日わが国で認知されているレベルでは、ポジティブ心理学と聞いて首を傾げるほうがむしろ健全な反応とも言えなくもない。ところが、ポジティブ心理学は今や大きな潮流として世界的な盛り上がりを見せている。実際、世界各地にポジティブ心理学のネットワークが形成され、例年どこかの国で国際会議が開催されている。2009年の6月には、米ペンシルベニア州で世界50カ国以上から1500人以上(うち4割が米国外)が参加しての大規模な国際会議が開催され、当分野の揺るぎない成功を力強く印象づけた。
また、米国のほか英国や豪州など、国家プロジェクトとして政府主導でポジティブ心理学の実践導入に積極的に取り組む国も少なからず出てきている。具体的には教育機関を中心に、企業組織や医療機関など多岐にわたる現場での導入が推進されており、確実な成果を挙げるに至っている。最新の動向としては、セリグマン博士が米国防総省のアドバイザーに任命され、軍隊に導入を図るべく準備が進められている。
ポジティブ心理学はこのように今まさに順風満帆といった状況なのだが、当分野の急激な発展を支えるものに「幸福(ハッピネス)は売れる」といった安易な商業主義が色濃く絡んでいる、といった批判がある。「ポジティブ心理学」という少々エキセントリックな響きにまつわる面白おかしいイメージや、目先の新しさに悪乗りした商業主義も見受けられる。
こうした問題点を指摘しながらもあえて述べるのだが、ポジティブ心理学の内容の実際やそのダイナミズムがわが国においてほとんど知られていないのは大変残念なことであり、現状のような圧倒的に少ない情報量に加え、誤解や皮相的解釈などに右往左往し、結局はこの分野に見切りをつけてしまうといったことがあるとすればそれはもったいない話であろう。