――石井さんは工場長を務めるのは今回が初めてですよね。巡回のとき、設備ではなく人を見るという姿勢はどこで身につけたんですか。

「1990年に北陸工場の建設プロジェクトに参加しました。私が30歳過ぎの頃です。全国から集まってきた技術屋たちをまとめて、ゼロから工場をつくり上げた工場長。すごい人でした。言葉は少ないけれど、私たちのことをしっかりと見ていてくれたんです。思い出すだけでも涙が流れるほど、いまでも尊敬しています」(と本当に目を潤ませる石井さん)

――工場の若手がいい顔をしている理由が少しわかったような気がします。

「うちの会社には素直な人が多いんです。私としては、もっとガッツやハングリーさを持ってほしいんですが」

――お言葉を返すようですけど、僕は40歳以上のバブル経験世代が言いたがる「いまの若手にはハングリー精神が足りない」発言には違和感を覚えるんです。イケイケドンドンで製品や工場をつくりまくって売れていた時代なら、そんな気持ちになれたのかもしれません。でも、僕たちの世代は、就職するときには「キャリアデザインを明確にしろ」とか「即戦力になれるスキルを身につけておけ」とか言われ、やっとのことで就職してもリストラだのコストカットだのと後ろ向きな話ばかり。何も考えずに仕事に打ち込めていた「古き良き時代」の思い出を押し付けられても困るんですよ。前向きに働いているだけでも素晴らしいと思ってほしいです。ええっと、いきなり私憤をぶつけてすみません(笑)。

「いや、それはいいポイントですよ。キリンビールでも95年の神戸工場を最後に新工場の建設はしていません。ラインが減ってしまった工場もあります。現場の人間にとって仕事がないほど辛いことはありませんからね。80年代、90年代に比べて、経験を積む場が減ってしまったことは確かです。

でも、視点を変えれば成長する機会はいくらでもあります。キリンビールは海外進出も加速していますし、ビール以外にも事業分野を広げています。若い人には広い視野で手がけたい製品やプロジェクトを見つけてほしいと思っています」