上司を助けてあげるつもりで

システムエンジニアとしてIBMに入社し、研究所、製造開発部門、マーケティング部門など、さまざまな部署を経験した。初めて取り組む分野の仕事も多かった内永さんは、どのように上司から仕事を教わってきたのか。

内永さんが入社4、5年目の頃から、自然とやっていたことがある。それは、「常に全体の中での自分の仕事の位置づけを理解する」ことだ。理解できるまで上司に質問を繰り返す。

何度質問しても納得のいく答えが得られないこともあった。その上司自身、頭の中を整理できないまま指示をしていたせいである。

「そういうときは、そのさらに上の上司はどんなことを実現したいんだろう、何を私の直属の上司に伝えたんだろう、と一生懸命考えるんです」

そして、「こういうことですよね」と全体像を「一枚の絵」にして見せる。

「面と向かって『あなたはわかっていない』とやっても、反感を買うだけ。自分が代わりに整理してあげればいい。人には得手不得手があるんだから、上司を助けてあげるつもりでいればいいんです」

上司の指示を聞いて、反射的に「イエス・サー」と言うのは好きではないという。「イエス・サー」と言わないことは、上司の期待以上の成果を出したいという思いの表れなのである。

部下に求める能力として、コミュニケーション能力を挙げる人は多い。相手や状況を選ばず、流暢に話ができる人は、上司から必要とされることも多いだろう。しかし内永さんは、「瞬時に正解を言う人より、拙くてもいいから指示を咀嚼して、自分の言葉にして返事をする人には、どんどん教えたくなる」という。

「情報を渡したい、私が次に実現したいと考えていることを話したい、と思わせる人とそうでない人。その違いはただ一つ、“全体像をとらえているかどうか”です」

部下に最初に教えることは、「どんなことでも、まず“枠組み”をつくることから始めなさい」だ。「それができない人に情報を与えるのは危険」と言って、内永さんはそれを洋服の収納にたとえる。

箪笥の中で、セーターはここ、靴下はここ、と決めていない人に対して衣類を次々に与えても、箪笥は溢れ返る。同じように、頭の中に「情報を入れておくための箪笥=枠組み」がないと、情報を渡してもその優先順位をつけられず、相関関係も把握できずに混乱を招くだけ。頭の中に枠組みを持っており、与えられた情報に対して、どこに整理しようか、と一旦考える癖がついている人には、何を伝えても大丈夫だと思えるそうだ。