「2007年問題」が現実化する2007年、各企業の課題の一つは、団塊世代の退職によって断絶される技術の継承である。この問題の本質は、職場で上司から部下へ、知識やノウハウの伝授がなされなくなっていることだ。

なぜ、「教える―教えられる」という、かつてはうまく機能していた関係が壊れてしまったのか。知識・情報量の増加にともなって仕事の細分化が進むなか、特定分野について上司より詳しいだけで「プロフェッショナル」と勘違いをする若者もいる。また、「いまの若い人は個人主義を徹底していて、(上司が)飲みに誘うにも事前にアポを入れなくては」という話も聞いた。教わる側にも問題があるのではないか。

「指示を完璧にこなす」だけの人は危険

指示を咀嚼して「自分の言葉」で返事できる人には、教えたくなる<br><strong>日本IBM 技術顧問 内永ゆか子</strong><br>1947年、香川県生まれ。71年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。95年、日本IBM初の女性取締役就任。2004年取締役執行役員を経て、07年4月より現職。著書『部下を好きになってください』には、35年間のキャリアの中での上司・部下・同僚などとのエピソードが綴られている。
指示を咀嚼して「自分の言葉」で返事できる人には、教えたくなる
日本IBM 技術顧問 内永ゆか子
1947年、香川県生まれ。71年東京大学理学部物理学科卒業後、日本IBM入社。95年、日本IBM初の女性取締役就任。2004年取締役執行役員を経て、07年4月より現職。著書『部下を好きになってください』には、35年間のキャリアの中での上司・部下・同僚などとのエピソードが綴られている。

女性管理職の登用度で国内トップ10に入る日本アイ・ビー・エム(以下IBM)で、1995年女性初の取締役に就任した内永ゆか子さんは、管理職につく女性が少ない頃から部下を持ってきた。現在は、J-Win(Japan Women's Innovative Network)という、会社の枠を超えた女性活用のための活動にも注力している。

「上司の話に反射的に返事をする人には教えても無駄だと思ってしまう。実は、優秀だと言われる人に多いんです」

定型的な仕事で必要とされる優秀さと、内永さんが部下に求めるものは違う。彼女は、目の前の仕事を完璧にこなすことにこだわるあまり、全体像が見えなくなる危険性を指摘する。

「ときどき『内永さんが前回の会議で言ったことと違うんですが、どうすればいいでしょうか』と言う人がいる。上司の言葉尻に反応するんです。ビジネスでは、いろいろな要因で前提条件や優先順位が変わることがあります。前提が変わったとき、こうやって他責に持っていく人にも、教えるのをためらってしまう」

内永さんが部下を叱るときによく言うことがある。「脊髄でものを考えるな」。脊髄は反射機能をつかさどるところ、つまり内永さんの言葉に対して、反射的に返事をするな、ということだ。このような人は、たいてい上司が話している間、いかに「正しく」答えるかを、必死で考えているそうだ。

実は、内永さんにも「脊髄で考えた」経験がある。営業担当の常務だった倉重英樹氏(現・RHJIインダストリアル・パートナーズ・アジア代表取締役社長)の補佐時代のことだ。毎日倉重氏宛に届く書類を、内永さんが処理し、必要なものについては指示を仰ぐ。補佐になってまだ数日のとき、内永さんは「A事業部のBさんがこう言っていますが、どうしましょうか」と尋ねた。ところが倉重氏は沈黙のまま。ようやく得られた返答は、「うるさい、どうしようと聞くとはなにごとだ」。

営業という自分にとって未知の分野であることを言い訳にしていた、と反省した一件だった。以来、どんなに難しい問題でも自分なりに答えを出し、上司に提案するようになったという。