外務省から疎まれ、「国策捜査」の標的となった“ラスプーチン”佐藤優氏。異能の外務官僚が分析する「嫉妬」の恐ろしさとその対処法は意外性に富み、かつ説得力に満ちていた。
最悪の対応は、“腹を割って話し合う”こと
「嫉妬」という2文字の女偏を男偏に換えると、ぐっと恐ろしいものになる。なぜなら、それは権力と不可分なものだからだ。嫉妬心が権力と絡むと、判断の合理性が失われ、感情にブレーキが利かなくなる。嫉妬に囚われた者は、対象者を徹底的に叩き潰すまで攻撃をやめない。しかも、自分が嫉妬していることを絶対に認めない。
こうした人間は、日常的には組織の中で和を重んじ、規律や階級を守り、上司の命令に素直に従うタイプのようだ。それが自分と同等か、もしくは自分より下の者に軽んじられたと思ったとき、あるいはその者が、自分が認められたいと思っている上司に、自分より大事に扱われていると感じたとき、激しい嫉妬の感情が生まれる。
嫉妬はなくならないからこそ怖い。なくそうとするのではなく、管理するという発想が必要だ。それには、動物行動学(ethology)が役に立つ。官僚のような「草食動物」タイプの人間の嫉妬は、政治家のような「肉食動物」タイプに比べはるかに恐ろしい。「肉食動物」は戦いに慣れており、攻撃の加減を知っている。ところが、普段はおとなしい「草食動物」がいったん攻撃に転じると、相手か自分が死ぬまで徹底的に戦う。さもなくば、自己の安全が保証されないと考えるからだ。彼らは追い詰められると、やることも子供じみてくる。外務省でも手帳をシュレッダーにかけられた者がいたし、私も一度ノートがなくなったことがある。
嫉妬の対象となるのは、大概、仕事の能力が高く人格円満、趣味人で友人も多く、女性にもモテる人物である。こういうタイプの人には嫉妬の感情が薄いため、嫉妬する人の心の動きがなかなかわからない。互いに腹を割って話し合えば誤解は解ける、などと無防備に考えがちだが、これは最悪の対応だ。嫉妬する側、される側の論理が咬み合うはずがない。当事者同士では決して解決できないものである。