故小渕恵三元総理にもこんなエピソードがある。総理就任時に官邸へ挨拶に来たある記者をぐっと睨んで「おまえ、あのとき先にカレーを食った奴だな」。十数年前、番記者たちとの懇談の場に小渕氏が20分遅れて来たとき、記者たちは出されたカレーを先に食べてしまっていた。先の記者がその場にいたことを忘れずにいたのだ。
嫉妬される人は、例えば美しい愛人といったプライベートの領域がその対象となることもある。この場合、事実をすべて正しく上司に報告したうえで、自分の業績推移などを提示しながら、職務に何ら支障を与えていないことを上司に納得させなくてはならない。
嫉妬されている人ではなく嫉妬している連中を注意せよ、というのが上司の心得だ。その際、叱るのではなく一緒にメシを食う。そういう目的で経費が切れることも組織には必要だ。最悪なのは、「あいつと同程度の成果を出してみろ」とハッパをかけることだ。
上司は日頃から、部下一人ひとりの持つ才能を様々な切り口で見つけておくことである。組織にとって誰一人欠かせない大事な人材なのだ、と感じさせる人事管理が重要だ。嫉妬されるような部下には、「野心があるなら、周囲にどう見られているかも考えたほうがいい」と、動物行動学の古典『ソロモンの指輪』(K・ローレンツ著、早川書房)を手渡すのもいいだろう。こうした技術の最適な師は、銀座のチーママだ。ホステス同士の嫉妬をマネジメントし、モチベーションを維持させる腕は実に見事である。
嫉妬のマネジメントは、ある意味帝王学だ。組織のトップの多くは、自覚するしないは別として嫉妬深く、嫉妬の破壊力を知っている。だからこそ、それをマネジメントし、頂点まで上ることができたのだ。就任直前に『嫉妬の世界史』(山内昌之著、新潮新書)を読んだという安倍総理も、それに気付いていると思う。新自由主義への傾斜を高め、個々の競争力の優劣が明確につく世相の下、嫉妬のマネジメントの重要性は増す一方となろう。