熾烈な競争が繰り広げられる既存市場(レッド・オーシャン)を避け、新しい顧客価値を創造することで競争のない市場(ブルー・オーシャン)をつくり出す。これが、世界でベストセラーになった『ブルー・オーシャン戦略』の中で説かれる経営論である。

ブルー・オーシャン戦略の土台となる考え方は、「バリュー・イノベーション」と呼ばれ、コストをそぎ落とすと同時に、業界では未知の要素を取り入れて買い手にとっての価値を高めなければならない。単なる技術革新や価格競争だけでは、血みどろの競争から抜け出せないため、顧客にとって全く新しい価値を生み出すことが不可欠だ。

通常、コストカットをすれば顧客満足度は下がり、付加価値をつければ価格は上昇する。相反するかのように思われる2つの戦略を共存させるには、業界の常識を打ち破るしかないのだ。

既存の市場――赤い海で、ただ新規顧客を開拓しようとするのではなく、常にこの“青い海”を目指してきた経営者2人に、その方法論を聞いた。

支店のショールームが産官学連携の拠点に変貌

<strong>内田洋行代表取締役社長 向井眞一</strong><br>1947年、東京都生まれ。71年、明治大学経営学部卒業後内田洋行に入社。98年に代表取締役社長に就任。
内田洋行代表取締役社長 向井眞一
1947年、東京都生まれ。71年、明治大学経営学部卒業後内田洋行に入社。98年に代表取締役社長に就任。

PRESIDENT2005年10月31日号の「経営者の一冊」で、『ブルー・オーシャン戦略』を愛読書としてあげた、内田洋行の向井眞一社長は、モノづくりだけでなく、輸出入も手がける商社としての強みを活かし、オフィス家具業界の常識を意識的に超えることで、バリュー・イノベーションを推し進めてきたと語る。

例えば、01年に発売したオフィス家具システム「D-MOLO(ディモーロ)」。脚部、梁部、天板というパーツ単位に分解、組み立てができるモジュール設計を採用し、システムの拡張性が高いため、部品を取り替えることで半永久的に使い続けられる。

通常、商品としての家具は、大きさや仕様、色などで細分化され、そのすべての完成品在庫を持つことが業界の常識だった。

そんな中、内田洋行は、仕様が共通化できる部品とニーズに合わせて細分化すべき部品とに分類し、顧客が希望する組み合わせによって商品をつくることを可能にした。まさに、コストカットとカスタムメードを同時に実現して、新たな顧客価値を創造したのだ。