未来年表をつくり将来を見据える

<strong>Eストアー代表取締役社長 石村賢一</strong><br>1962年、東京都生まれ。日本大学理工学部中退。アスキーを経て、99年、Eストアー設立。ウェブショップオーナーのEコマース支援を行っている。
Eストアー代表取締役社長 石村賢一
1962年、東京都生まれ。日本大学理工学部中退。アスキーを経て、99年、Eストアー設立。ウェブショップオーナーのEコマース支援を行っている。

一方、ウェブショップの総合支援サービスを展開するEストアーの石村賢一社長は、創業した1999年当時、すでに過当競争が起きていたレンタルサーバー業界で、いち早く「ショップ用レンタルサーバー専業」を掲げた。

ディスク容量やアドレス数で競合他社としのぎを削っていてはいずれ疲弊してしまう。Eストアーは業界の常識であるこれらの機能で勝負することをやめ、宣伝方法から電子決済までウェブショップを成功させるためのサービスを充実させることにした。

「ウェブショップならばわが社に、それ以外ならば他社に。こう言い切った時点で競合他社はなくなりました」

石村社長の手法は、まさにブルー・オーシャン戦略の実践例といえる。

「違うことをやっても必ず成功するとは思いません。ただし、違うことをやらなければ成功しないのは確かです」

しかし、ひとつの成功が永遠に続くわけではない。魅力的な市場には必ず他社が参入し、すぐレッド・オーシャンに変わってしまうからだ。常に、次なるブルー・オーシャンを見つける力を身につけさせるため、石村社長は、幹部クラスの社員に耳を疑うような檄を飛ばしている。

「顧客と現場にはりつくな」

もちろん、既存顧客と現場も重要だ。しかし、会社の方向性を決定する立場にいる幹部社員はそれだけでは不十分だ。業界の外にも目を向けて、時代の変化を察知しなくてはならない。

「毎日遅くまでどっぷり現場に浸かっていたら、外の状況が見えなくなってしまいます。月に1回は会社をサボって遊べ、と言っているぐらいです」

とはいえ、漫然と遊ぶだけで時代の流れをキャッチできる人は少ない。もっと具体的に「外」と「先」を見渡すために、石村社長はユニークな手法を取っている。21歳のときから作っている「未来年表」だ。エクセルファイルに、オリンピック開催予定地や60歳以上人口など、将来の「決定事実」や「予定事実」を書き込んでおき、新聞などで気になった事柄があれば、随時ファイルを更新していく。これをときどき眺めるだけで、「今のうちにこれをやっておいたら将来得するな」という発想が生まれるという。

「実は、多くの人がごく当たり前のことすらも忘れています。例えば、数年先に地下鉄の駅が開通することが決まっている場所があったとしますよね。オフィスや自宅の引っ越しをする際、その予定を覚えているといないとでは意思決定に大きな差が出るでしょう」

まさに、5年後のブルー・オーシャンを見つけるために大いに役立つツールだといえそうだ。

社外の人との付き合い、遠方の客との直接対話、一人きりの街歩き、「未来年表」づくり……。業界の常識を超え、前人未到の市場を見つけるブルー・オーシャン力を高めるためには、まず、自分なりに、「普段の立ち位置を変えてみる」ことが必要なのだ。同時に、自分の仕事と真摯に向き合い続けていれば、ぱっと目の前が開け、幸豊かな青い海が見えてくるはずである。

(澁谷高晴(内田洋行)、鶴田孝介(Eストアー)=撮影)