47歳の若さで、黒人初の米国大統領になることが決まったバラク・オバマ氏。彼を当選に導いたのは、米国国民が発揮する主体的なフォロワーシップであると筆者は説く──。
優れたリーダーの裏に存在する優れたフォロワー
バラク・オバマという名前の47歳のアフリカ系アメリカ人が来年1月、第44代アメリカ合衆国大統領になることが決まった。その生い立ちは、ケニアからの移民の子供であるということ、また両親の離婚、母親の再婚などにより子供の時期をインドネシアで過ごし、さらにその後ハワイにおいて白人の母親と母方の祖父母(共に白人)によって育てられるなど、それこそ波瀾万丈である。ケネディ家やブッシュ家、麻生家などのような政治家を多く輩出した家柄などでは全くない。また、連邦レベルでの政治家(上院議員)としての経験もまだ5年程度の、日本流にいえば新人議員である。
でも、アメリカ合衆国の国民は、そのオバマ氏に今後4年間の自分たちの国と生活を賭けたのである。その背景にはもちろん8年間の共和党政権に対する失望も、ちょうど選挙戦が佳境に入ったときに発生した世界金融危機もあったのだろう。また、よく言われるようにオバマ氏のリーダーシップ能力も大きいのかもしれない。特にコミュニケーションの力は卓越している。今年1月8日のニューハンプシャー州での演説から多くの人々を魅了し続けたYes We Canというフレーズは、英語の不得手な私たちにとっても理解しやすく、繰り返されるにつれて耳に焼きついた。申し訳ないがブッシュ大統領と比較すると、格段に素晴らしい。
ただ、私が本当に感心するのは、オバマ氏のリーダーシップや、コミュニケーション能力にではない。正直に言えば、オバマ氏ぐらいの人材は、米国には何人もいると考えるからである。私がすごいと思うのは、まだほとんど何も実績を残していない人材を、自分たちの未来を託すリーダーとして選ぶアメリカの国民に対してである。私は、そこにアメリカという国の人々が時に見せる「フォロワーシップ」の神髄を見た気がした。
私の個人的な経験からしても、アメリカ人というのは、リーダーシップをやたらと強調する半面、自分がフォロワーになるべきだと判断すると、きちんとフォロワーシップを発揮するのである。言われてみれば当然だが、優れたリーダーの裏には必ず、優れたフォロワーがいるはずだ。そして、フォロワーがリーダーについていくとは、ハーメルンの笛吹きのように踊らされてついていくだけではない。リーダーのビジョンを達成するために、自律的に判断し行動する。リーダー候補を本当のリーダーにするためにフォロワーとなり行動する、と言ってもよい。そうした行動がフォロワーシップなのである。こうした意味での健全なフォロワーシップを、必要なときに組織の構成員が発揮できる組織は強い組織だと言わねばならないだろう。
今回のオバマ氏の当選は、彼のビジョンに共感した多くのアメリカ国民が積極的に主体的なフォロワーシップを発揮した結果だと思う。もちろん、オバマ氏のリーダーシップと、アメリカ国民のフォロワーシップの組み合わせの真価は、今後4年間で問われることになるが、多くのアメリカ国民が健全なフォロワーシップをすでに発揮している意味で、アメリカの変革は好スタートをきったと言えよう。