人には「知らないうちに知ってしまう」ことで、確信が閃くことがあるという。筆者はこの「暗黙の知」について、メカニズムと重要性を説き明かす――。

人混みの中でもなぜ自分の知人を見つけられるのか

マイケル・ポランニーは『暗黙知の次元』の議論の中で、1つの機制(メカニズム)を強調する。それは、対象に棲み込むという機制である。人が暗黙の知の次元を発揮するために、対象に棲み込むことが必要だと指摘する。私は、暗黙の知の次元こそが、以前本欄で紹介した「ビジネスインサイト」にほかならないと考えているのだが、今回は、その機制についての議論を少し紹介しながらその重要さを明らかにしよう。

私たちは、人の顔を記憶している。人混みの中でも、自分の知り合いを見つけることができる。よく似た写真を並べられても、自分の知っている人ならすぐにわかる。だが、家族でも友人でも、あるいは有名人でもよいのだが、その人のモンタージュ写真を作れるだろうか。ポランニーが着目したのは、「目、鼻、口といった各部分の特徴については、言葉に出したり写真から選んだりできなくても、その諸特徴が全体として構成する顔は知っている」という知の機制である。