2013年以降のポスト京都議定書に向けた新たな枠組みについて、国際交渉が始まっている。日本が提唱する「セクター別アプローチ」に対する筆者の期待と懸念とは――。
京都議定書の落とし穴「炭素リーケージ問題」
2007年の国際交流会議で安倍晋三元首相は、世界全体の温室効果ガス排出量を50年までに50%減らすという「クールアース50構想」を打ち上げた。08年の洞爺湖サミットへ向けて福田康夫前首相は、日本の温室効果ガス排出量を50年までに60~80%減らすという「福田ビジョン」を提示した。2人の首相は、耳当たりのいい大型提言を遺したまま、政権を途中で投げ出して表舞台を去ったけれども、彼らが国際会議やサミットで打ち出した「クールアース50構想」や「福田ビジョン」は、日本の実質的な国際公約として、今後とも意味を持ち続ける。
「クールアース50構想」にしろ「福田ビジョン」にしろ、単純な市場メカニズムの活用だけでは、到底それを達成することができないことは明らかである。温室効果ガス排出量を50年までに50~80%削減するためには、原子力発電などの「既存の武器」を活用して時間を稼ぎつつ、省エネルギーや新エネルギー利用を飛躍的に推進する、ブレークスルーな技術革新を実現しなければならない。
このブレークスルーな技術革新を可能にする枠組みとして、ここのところ急速に注目されるようになったのが、セクター別アプローチである。セクター別アプローチとは、温室効果ガスの排出量が多いセクター(産業・分野)ごとに、国境を越えてエネルギー効率の抜本的向上を図り、温室効果ガス排出量を大幅に削減しようとする考え方である。
セクター別アプローチのメリットは、国ごとに温室効果ガス排出量の削減義務を設定した、京都議定書の枠組みが持つ落とし穴をカバーできる点にある。もし、京都議定書の枠組みに主要な温室効果ガス排出国がすべて参加していたならば、落とし穴は生じなかったかもしれない。しかし、現実は異なっていた。
京都議定書が定めた温室効果ガス排出量削減義務の国別設定の枠組みには、自国における「豊かさ」の実現が阻害されることをおそれた中国(温室効果ガス排出量世界2位)やインド(同5位)などの新興国が、参加しなかった。一方、新興国の不参加を「不公平」だとみなしたアメリカ(同1位)は、京都議定書の枠組みから離脱した。この結果、京都議定書で削減義務を負った国々の温室効果ガス排出量の合計値は、世界全体の総排出量の3割強にとどまることになった(04年実績で計算)。
京都議定書による温室効果ガス排出量削減義務の国別設定の枠組みに主要な温室効果ガス排出国の一部しか参加しなかったことは、いわゆる「炭素リーケージ(漏出)問題」が発生する可能性を高めた。