イタリア中部(ローマから350キロ、ミラノから330キロ)の小高い丘に位置しているサンマリノ共和国という国がある。その面積が61平方キロであるから、まさしく「小高い丘に位置している」といえるほどの超小国で、人口もわずかに3万人ほどである。
日本外務省によるサンマリノ共和国についての説明によれば、「4世紀初頭、ローマ皇帝によるキリスト教徒迫害を逃れるため、マリーノという石工がこの地にたてこもり、信徒を集め共同体を作ったのが建国の伝説とされている。中世にも天然の要塞を利用し外敵の侵入を防ぎ、自由と独立を守り続けた」。
実際に、「小高い丘」というよりむしろ、絶壁に囲まれた「天然の要塞」と言ったほうが、サンマリノの印象に近いかもしれない。
このサンマリノ共和国では、他のEU諸国と同様にユーロが導入されて、流通している。通常(例えば、筆者自身の講義の中でも)、ユーロ導入国は、現在、EU15カ国(ベルギー、ドイツ、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、イタリア、キプロス、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、フィンランド)、そして、2009年1月1日からスロバキアが加わって、EU16カ国と説明をされることが多い。しかし、実は、このサンマリノ共和国のほか、モナコ、バチカン市国の超小国においても、ユーロが流通しているのである。したがって、正確には、現在、(EU15カ国+超小国3カ国=)18カ国においてユーロが流通していると言わなければならない。
ご存じの方も多いかと思うが、ユーロの硬貨の表側にはEUの地図が描かれているのに対して、その裏側には、国によって異なる図柄が描かれている。国際通貨を研究している筆者としては、訪れた先の国でお釣りとして手にした通貨を集めることを楽しみにしている。ユーロが導入されることが決まった当初は、欧州各国通貨の種類が減って、欧州へ訪れる楽しみが半減するかと落胆していたが、ユーロ硬貨の裏側の図柄が国によって異なることを知って、欧州各国を訪れることの楽しみはそのまま維持されている。もちろん、サンマリノ共和国を訪れる機会があれば、是非ともサンマリノ共和国で買い物をして、お釣りとしてSAN MARINOと刻印されたユーロ硬貨を手にして、筆者のコレクションを増やしたいと思っていた。
ところが、サンマリノ共和国を実際に訪れる機会に恵まれた際に、何度も何度も買い物をしたものの、買い物して受け取るお釣りのユーロ硬貨は、SAN MARINOと刻印されたユーロ硬貨ではなく、レオナルド・ダ・ビンチが描いた図柄のイタリアのユーロ硬貨ばかりであった。結果として、レオナルド・ダ・ビンチの描いた図柄のユーロ硬貨が財布にたまりにたまるだけであった。そんななか、サンマリノの街のなかで、切手や硬貨のコレクションのショップを見つけた。サンマリノ共和国の昔の硬貨でもないかとそのショップを覗いてみると、昔の硬貨もあったが、それよりも目を引いたのは、SAN MARINOと刻印されたユーロ硬貨であった。