優秀な営業マンを何人かき集めても、つくることができない力──。積水ハウスの「納得工房」での取り組みを例に、筆者は、競争優位の第3、第4の条件を提示する。

競争優位を確保する4つの条件

厳しい競争下において、企業が「継続した競争優位」を確保するためには、4つの条件のいずれかが必要だ。第1は、他社より安くモノをつくる力。原材料の調達力を含めた生産や販売における「規模の経済」の論理だ。第2は、顧客がその企業に対してもっている「ブランドのイメージ連想」がつくり出す連想の経済。「この会社に任せれば安心」とか、「ここの会社の技術は一流だ」とかといったイメージ連想は、見えにくいが企業を支える重要な力だ。第3は、多重利用できる知識に基づく範囲の経済。1つの経験が確実にしかもスピーディーに組織のものとなり組織の中を伝わっていく。この経済の威力を、2つのケースを通じ見てみよう。第4の経済は、それを述べた後に触れよう。

積水ハウスに「納得工房」と呼ばれる研究所がある。そこは、同社の技術研究所だが、同時に、施主と研究者とが直接に対話できる場もつくられている。同社の顧客関係はそこを1つの拠点として進められる。

積水ハウスの顧客関係のプロセスは以下のようになっている。まず、各地にある展示場内モデルハウスで、住宅市場の潜在顧客と出会う。「新しく家が欲しい」と思った人は最寄りの住宅展示場に行きモデルハウスを見る。モデルハウスをもった住宅メーカーは顧客を探して飛び込み営業をする必要はない。

モデルハウスを訪ねた客は、いろいろと担当の人から案内や説明を受ける。それが終わって、アンケート用紙に住所・氏名・年齢・職業ほか、家族構成や年収や住宅購入予定などを書き込むことを求められる。この結果はもちろん、本社の顧客データベースに入る。

データベースに入った顧客リストとは、ほぼ住宅を買いたいと思っているいわば顕在顧客のリスト。その顧客を、営業担当が訪問する。買いたいと思っている顧客を訪問するので、営業担当の負担は心理的にも労力的にも軽い。

そこまではいずれの住宅メーカーも同じ。そこから、積水ハウスだけは少し違う。同社の営業担当は、自社の納得工房へ誘う。「どこのメーカーの商品を購入されるかは別として、ご家族の生活にピッタリ合った家とは、どのような家か検討しませんか」と。「当社の住宅を買ってください」とは海千山千の営業もなかなか切り出しにくいが、「顧客の課題解決の手助けをする」というのは言いやすい。こうして、顧客が納得工房にやってくる。

納得工房には、いろいろな設備が整っている。バスタブが何十とあって、湯も満たされている。やってきた顧客は水着に着替えてバスタブに入ることができる。キッチンに行くと、調理台の高さや広さを変えて、調理器具を実際に使って料理ができる。顧客は1日、そこで話を聞いたり実際に確かめたりしながら、家族の生活に合った住宅とは何か、少しずつ、だが、しっかりとわかるようになる。思いもつかない課題や、さらに良くなる工夫もわかる。気づきが増え理解が深まる。顧客の満足が上がり納得も増す。