積水ハウスに学ぶ2つの顧客関係プロセス

以上の話には、顧客との関係について大事な2つの要素が含まれている。

第1は、顧客関係をプロセス/ステップで捉えることの大事さだ。あまたいる潜在顧客の中から、「住宅を欲しい」というニーズをもった顕在顧客を見つける第1ステップ(モデルハウス)。そこで発見された顕在顧客のリストを構築する第2ステップ(データベース)。より具体的なニーズをもった顧客へと転換する第3ステップ(納得工房)。顧客との関係がこうしたステップに沿ってつくられる。このやり方が多種多様の効能をもつことは、鋭敏な読者ならわかるだろう。顧客の課題解決をスムーズに進めることが営業の課題だとすれば、積水ハウスのこのプロセスは、他のどこよりもその課題に応えるものだ(拙書『営業が変わる』参照)。

もう1つ大事な点は、納得工房の中に、顧客の住宅に関わるさまざまな客観的な情報が集まってくる効能である。

どこの住宅メーカーでも、営業担当は顧客と緊密な友好関係をつくり上げる。一生の付き合いとなることも少なくない。そのような関係をつくって初めて、営業担当は、その顧客の家族の生活のスタイルや好みについて隅々まで知ることができ、その顧客に向けて有効な提案ができる。

しかし、である。残念なことに、その情報の多くは、営業担当の手帳か頭の中に収まる。それらの情報が設計に姿を変え器材に具体化すると、記憶の闇に消え、手帳の中に埋もれる。もちろん、それらを詳しく書き出せという作業を営業担当に課してもよい。だが、あらためて書き出された情報は正確な事実として書き出されたものか。営業担当がそのことをきちんと覚えているのか。本当に事実だけが書かれているのか。

そこに納得工房の出番がある。顧客がやってきて、自分の好きなバスタブ、調理器具や調理台の高さ、階段の段差や部屋の防音のレベル、玄関の扉の取っ手に至るまで細かく、自分の生活に合わせて真剣に尋ねそして選択する。すべて客観的な情報であり、しかも毎日多数のサンプルが確実に集まる。質問表を適当にばらまいて得た回答とは、月とスッポン、質も真剣味も違う。これらの情報が、毎日、水をダムにためるように納得工房の中にたまる。そして、知識として整理される。

それら知識を、いろいろな部門が使う。新しい住宅部材の商品開発部門が使う。新しいモデルハウスのために設計部門が使う。営業部門が、顧客に対して新しい提案のために使う。1カ所にダムの水のように蓄えられた知識は、多方面で使われる。

顧客関係において生まれた情報を知識に変えて蓄え多重利用する。これがもつ力は、いかに有能な営業担当を何人かき集めようが、それだけではつくることができない力なのである。

ある消費財メーカーは、そうした知識のダムを営業プロセスの中に意識的につくろうとしている。

組織小売業や卸売商相手のメーカーは、2つのタイプの営業をもつ。1つは「本部担当」営業。もう1つは、各店舗を訪問して店舗の売り場担当と交渉して商品の棚割りや陳列を整える「店舗担当」営業。

本部担当は、相手組織と本部商談を行う。年間取引契約を決め、どのような新商品を、どのようなマーケティング・プログラムの下に導入するかを説明しながら、週・月・年の取引の大枠を決める。たとえば、今なら桃の節句にちなんで、その期間、特売コーナーに商品を陳列販売する取り決めを小売り本部と結ぶ。その後、それが個店に下り、店内のどの場所でどれくらいの陳列量で云々と具体化される。

店舗担当は、そうした取り決めにしたがって自社商品が各店の棚にきちんと並んでいるか、目立つ場所にあるか、欠品あるいは過剰在庫を起こしていないか、丹念に調べる。それとともに、相手の売り場担当者と交渉して店頭改善も行う。こうした仕事を通じて店頭情報を集める。これらの情報に基づいて、支店や営業所における営業成果評価や次なる計画が立案される。