少子高齢化の進む日本が経済レベルを維持するには、イノベーションが不可欠である。そのために、筆者は工場の枠をはるかに超えた「開かれたものづくり」を展開することが必要だと説く。
「ものづくり」は「匠の技」だけではない
前回に続いて「ものづくり」の話である。前回、マスコミ等が昨今盛んに取り上げている「ものづくり」論議は視野が狭すぎないか、と問題提起した。製造業の生産現場の、それも「匠の技」ばかりにものづくり論を限定する傾向に、筆者としては異議があるのだ。
たしかに、「ものづくり」と聞いて一般人が真っ先に思い浮かべるのは、旋盤が回り油や切り子が飛ぶ町工場のイメージであり、そこで働く人々が持つ、現場の熟練の技である。それらのテレビ画像や新聞記事を見て感動し、「工場の匠の技は素晴らしいな」「日本はこういう人たちが支えているんだな」「彼らの技は伝承されねばいかんな」と再認識することは、とてもいい。つい数年前には、そうした話さえどこかに消えて、「どうせ製造業はあらかた中国に持っていかれるんでしょ」といった悲観論が日本中に蔓延していた。それに比べれば、「やはりものづくりは21世紀日本の強みの1つだ」と、自信を取り戻してきたのは大進歩といえよう。
しかしながら、こうした「製造業・工場・固有技術・熟練技能」の話だけでは、我々日本人がこれから考えていくべき「ものづくり」論としては、やはり狭すぎるのだ。
たとえば、読者諸兄の大半は、非製造業系の企業に勤めているか、あるいはメーカーでも本社・支社や営業所で働いていると推察されるが、そうした皆さんは、「ものづくりは工場現場の話だから自分には関係ないや」とお考えではないだろうか。
しかしながら、「ものづくり」とは本来、工場の枠をはるかに超える広い概念なのだ、と申し上げておきたい。そうした広い意味のものづくり概念を、筆者は「開かれたものづくり」と呼ぶ。それは、製造業の生産現場のみに閉じこもることなく、開発や販売の現場、さらには非製造業にまで広がりを持つコンセプトだ。したがってこれは、おそらくほとんどの読者諸兄に関わる話なのである。