また、設計情報でお客を喜ばせるという点では、サービス業もれっきとした「ものづくり」であり、製造業とサービス業に本質的な違いはない。設計情報を鉄板やシリコンなど有形の媒体に転写すれば製造業だが、それを電波や場の空気など無形の媒体に乗せればサービス業である(右図を参照)。つまり「開かれたものづくり」は、製造業を超え、非製造業をもカバーする。ものづくり経営研究センターが、スーパーマーケットや損害保険の研究を行うのは、その意味で自然なことなのである。

ちなみに、他社よりも良い「設計情報の流れ」をつくる現場の力を「ものづくり組織能力」と言い、企業間でそうした組織能力を競うことを「能力構築競争」と呼ぶ。たとえばトヨタ自動車は、「良い設計情報の流れ」をつくる組織能力において世界でも1級なのであり、すなわち「ものづくりのトップ企業」なのだ。単に「もの」の流れだけを追いかけても、ムダをなくしてよどみのない流れをつくる「トヨタ生産方式」の本質は理解できない。

では、なぜ「開かれたものづくり」という考え方が必要なのか。この発想が、21世紀の日本を考えるうえで、ひとつの基点となるからである。このとき、じつは読者諸兄の大半が、「開かれたものづくり」に直接ないし間接的に関わらざるをえないのだと筆者は言いたい。

端的に言って、少子高齢化(労働力人口の減少)の進展が今後も確実なわが国が、経済力で存在感を保ち、豊かな社会の持続を目指すなら、日本全体の生産性(労働力人口当たりの付加価値)を高めていく以外に方法はない。そのためにはイノベーションが不可欠だ、との議論が政府・産業界・マスコミなどで盛んだ。それは一般論として正しい。ただし、「イノベーション→生産性向上→経済成長」というこの通説に欠けているのは、リアリティのある現場論である。「開かれたものづくり」概念がこのギャップを埋める、と筆者は考える。