非製造業の生産性はアメリカの約半分
筆者がここで問いたいのは、生産性において、世界最大の経済大国アメリカをしのぐ部門が日本にどれほどあるのか、という素朴な疑問である。統計や現場観察から推定する限り、それは自動車、電子・精密機械、一般機械、鉄鋼、化学など製造業の一定部分(全部ではない!)に限られる。これらの「強い製造業」が日本経済に占める割合は、せいぜい十数%と推計されるが、ここはトヨタに象徴されるように、国際的な能力構築競争を通じて、多能工のチームワークを核とする「統合型ものづくり能力」を培い、高い生産性や製造品質を達成してきた。筆者が「競争貫徹部門」と呼ぶ所以である。
これに対し、日本の非製造業の生産性は、アメリカのおよそ半分と言われる。もっとも、筆者の体験ではアメリカの接客系サービス業の質は劣悪な傾向があるので、品質調整済みのサービス業の生産性はそこまで差がないだろう。また、ここにも能力構築を怠らぬ立派な企業は存在する。しかし全体を見渡すならば、生産性の低さは明らかだ。そもそも戦後日本の非製造業種の多くは、非貿易財ゆえに国際競争に曝されず、政府の規制・保護や談合により能力構築競争が正常に機能しない傾向があった。筆者はこれらの業種を「競争不全部門」と呼ぶ。かく言う筆者がいる大学もそうだが、金融も、建設も、運輸も、一部の小売り・サービスも、マスコミも、そして官業も、たいていはそうした「競争不全部門」に属すると言わざるをえない。読者諸兄の多くが属すのもこちら側ではないか。
要するに、生産性で対米優位を保つ部門は、製造業を中心に日本経済のおそらく十数%にすぎない。残りの数十%は、ものづくりの組織能力に疑問のある競争不全部門あるいは低生産性部門である。後者の生産性がアメリカの半分程度であるため、日本経済全体の生産性はアメリカのせいぜい7割程度に留まるわけだ。
人口が増えている間はそれでもよかった。非貿易財の生産性が低い場合、その産業は、まさにその低生産性ゆえに雇用を吸収してくれたからである。これまで日本の失業率が比較的に低かったのも、これら低生産性部門の存在ゆえと言えなくもない。
しかし時代は変わった。少子高齢化の中でわが国が経済成長を持続するには、もはや日本全体の生産性向上が不可欠だ。当面は、日本全体としてアメリカの付加価値生産性に追いつくことが目標であろう。日本のキャッチアップはまだ終わっていない。