欧米発の分業型ITは、日本企業の「統合型ものづくり組織能力」に適合するのか。筆者は、この問題に関する識者の分析から、今後、日本企業が進むべきIT導入の方法を提案する。
「使いこなし能力」でカバーする日本企業
前回(http://president.jp/articles/-/2067)、統合型のものづくり組織能力を構築してきた日本企業は、どのような形でものづくり支援のIT(デジタル情報技術)を導入すべきか、という問題を考えた。そして、この問題を考えるうえで、現在もっとも注目されている分野の1つが、自動車の製品開発支援ITであると述べた。
外観デザインが重視され、複雑な自由曲面を扱う自動車系のCAD(設計支援IT)は、回路設計が前面に出る家電・エレクトロニクス系の設計支援ITとは異なる進化経路をたどってきた。そして自動車系では、1990年代以降に普及した欧米発の「分業型CAD」と、日本企業の「統合型ものづくり組織能力」の不適合、という問題が今後顕在化するおそれがある、と指摘した。
現在のところ、日本の自動車企業各社は、コンカレント・エンジニアリング(開発・生産準備の期間重複)やフロント・ローディング(問題解決の前倒し)の基礎となる組織的問題解決能力の構築で世界をリードした結果、開発期間や開発生産性に関する限り、欧米企業を圧する現場競争力を発揮している。しかし同時に、「欧米の汎用CADソフトはある面で使いにくい」という声を設計サイドから頻繁に聞くわけであるから、実態は、「ベストの使いやすさとは言えない欧米発のCADを、使いこなし能力でカバーしているため、競争力の低下という現象は表面化していない」ということであろう。
これは、まことに評価の難しい状況である。一方では、「結果的に開発競争力で勝っているのだから、今の路線でよいではないか」「グローバル経営の時代、多少使いにくくても海外部品企業と共有できる汎用CADを使うべきだ」という現状肯定論も当然ありうる。他方、「今はよくても、こうした不調和はそのうち限界がくる。調子のいい今こそ次の手を打つべきだ」との声も説得力を持つ。いずれの声を優先すべきだろうか。
拙速に結論を急ぐべきではないが、最近、この問題に関する第一人者の意見をまとめて聞く機会があったので、簡単に紹介しておこう(いわゆるPDM、PLM、BOMなども重要だが、ここではCAD系ITの話に絞る)。