一方、間瀬社長は、設計論の観点から、やはり現状の欧米発CADの問題点を指摘する。確かに、欧米製の汎用CADソフトは、グローバル経営に伴う海外部品企業とのデータのやり取りにおいて有利であるし、CADソフトの開発費が100億円を超える中で、自動車メーカーは使い勝手のよい自社内製ソフトから汎用ソフトに移行。しっくりこない欧米発ソフトを使いやすくするために、日本の自動車メーカーは欧米CADベンダーにあれこれ改善要求を出したが、これは結局日本企業の設計ノウハウの流出にもつながった。
欧米発CADは、確かに優れた機能も持つが、もっぱらCADオペレーターが使うことを前提にした分業型で、日本型の開発組織に合わない。とくに三次元ソリッド・モデルは、設計者の思考プロセスと異なる手順で形状を作成する、というミスマッチが生じる。今のCADはいわば試作CADであり、設計CADとは言い難い。また、欧米CADベンダーの中には、ユーザー企業の改善要求になかなか応じないところもある。あるいは逆に、互換性の乏しい新製品にモデルチェンジしたり、他企業に買収されたりと、何かと安定性に欠ける。以上が間瀬氏の主張の概略である。そして氏は、構想設計段階で使い勝手のよい、設計者の意図を的確に伝えるITが必要だと説く。
次にユーザー企業サイドから、日産の大久保宣夫最高技術顧問(自動車技術会会長)にお話を伺った。ユーザー企業の技術を先導する立場ということもあり、これまでの日本メーカーの「CAD使いこなし」の実績には肯定的である。確かに使いにくいところもあり、ソリッド・モデルによるデジタル・モックアップの作成などには大きな工数を要したが、フロント・ローディング効果により、製品開発全体の迅速化・効率化につながったと見る。これらは他の論者も異存のないところだろう。また大久保氏は、グローバル経営化の中で、欧米発汎用CADへの移行は不可避であったと見る。デジタル・モックアップ作成に伴いCADオペレーターへの依存度が高まったことも、それにより設計者が創造的な作業に集中できるようになった、と肯定的である。
しかしその大久保氏も、製品開発上流の構想設計段階に役立つITが欠けていると指摘する。例えば、設計時に必要な諸情報を迅速に収集する機能が乏しい。今のCADは概して、派生モデルの標準型製品開発における情報共有や情報流通には役立つが、一から起こす創造型製品開発をサポートするCADが欠けているのである。