もはや、ITそのものでは他社に差をつけることは難しい。競争優位のための「必要条件」かもしれないが、「十分条件」ではないのだ。筆者は、「組織能力」にITを合わせることが本筋である、と主張する。

20世紀後半を通じて「能力構築競争」を継続してきた日本企業は、自らが背負ってきた歴史に根差す「ものづくり現場発の能力構築戦略」を堅持しつつ、それと欧米流の「頭を使い楽して勝つ戦略」との間のバランスをとっていくべきだと前回論じた。ここで「ものづくり現場発の能力構築戦略」とは、厳しい能力構築競争から逃げず、多能工のチームワークを基本とする「統合型のものづくり組織能力」を鍛えたうえで、それと「相性」の良い製品アーキテクチャ(設計思想)、ビジネスモデル(儲けの構造)、組織構造、人事方針、購買方針、IT(デジタル情報技術)方針などを確立する全体最適の方針を指す。

つまり、あくまでも「組織能力の継続的な進化」を戦略の最優先課題とし、それを最大限に活かすようにヒト、モノ、カネ、情報などの流れをつくっていくことである。間違っても、「新しい仕組み」や「先端技術」が独り歩きし、自社の強みである組織能力の構築・増進をかえって阻害するようなことがあってはならない。企業の競争力を支える「IT」も、その例外ではない。