自動車の例 欧米発汎用CADの席捲

かつて、日本の自動車メーカーの多くは、自前のCADシステム等を持っており、それらは日本企業が構築してきた「統合型開発の組織能力」と相性の良い「統合型CAD」だった。ところがその後、CADは2次元から3次元表現のソフトへと進化し、それも、人工物の立体形状を輪郭で表現するワイヤーフレーム・モデルから、立体を表皮部分のみで表現するサーフェイス・モデル、さらには塊として立体を捉えるソリッド・モデルへと立体表現の技術が発展した。ただでさえ部品点数が3万点あり、外観が自由曲面で構成される自動車のことだ。当然、ソフト自体も複雑化し、開発費は莫大になり、個々の自動車メーカーが自力でそうしたソフトの開発や保守を行うことには限界が来た。

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「統合型組織能力」と「分業型IT」の相性

そこで、自動車メーカーは自社独自の内製CADをあきらめ、汎用ソフトを売るベンダーからパッケージCADを購入するようになった。それらは基本的にすべて欧米発のもので、例えばCATIA,Pro/ENGINEER,I-DEAS,Unigraphicsなどである。最後まで自前の「統合CAD」を維持していたトヨタ自動車も、汎用ソフトへの移行を決定した。

ネットワークの時代、CADの標準化は必然的な流れかもしれない。しかし、歴史の成り行きとはいえ、ものづくりで世界をリードする日本の自動車産業向けの、しかも「擦り合わせアーキテクチャ」の(日本が得意な)ソフトであるはずのCADが、欧米ベンダーの汎用ソフトにほぼ支配されているのは、不思議な光景と筆者には見える。

皮肉にも、近年、経営危機や国際競争力の低下が問題とされた家電・エレクトロニクスの分野では、日本のCADベンダーが、自動車産業よりも活躍しているようである。

むろん筆者は、欧米のCADを排斥せよ、などと国粋主義的な暴論を吐くつもりは毛頭ない。使い勝手が良く、安価で、ユーザー企業の競争力強化や組織能力構築に貢献してくれるソフトなら、国籍は関係ない。