組織能力とITの「相性」を見極めよ

このように、現在、自動車産業で支配的な「分業型CAD」は、日本企業が長年培ってきた「統合型組織能力」と相性が良くない、使いにくい、といった声を、現場サイドからよく聞くのである。

それでも日本の自動車技術者は、文句を言いながらもそれらのCADを「使いこなし能力」あるいは「改良能力」で補い、開発期間を短縮化し、開発生産性を向上させてきた。例えば、CAD等により設計問題解決の前倒しを行う「フロント・ローディング」によって、デザイン決定からの開発期間を20カ月以下にまで短縮化している。同じパッケージCADを使いながら、日本企業は欧米企業より10カ月ぐらい開発期間が短いという実例もある。

しかしながら、自動車設計自体が複雑化していくなかで、相性の悪い「分業型CAD」のみに頼ることのデメリットは増幅していく恐れがある。チームワーク環境と相性の良い「統合型CAD」を、せめて人間系とのインターフェース部分にもっと使えないだろうか。欧米系のCADがそれに対応してくれないのなら、日本側でそうしたソフトを自主的に開発し標準化する必要はないだろうか。

こうした「不適合論」に対しては、反論も聞かれる。いわく、(1)日本でも若手の技術者は欧米CADを使いこなしており、懸念は世代間ギャップの問題にすぎぬ、(2)グローバル化の時代、海外の部品メーカーが欧米CAD一辺倒なのだから合わせるしかない、(3)日本企業が欧米CADをカスタマイズして日本型に変えさせればよい、等々。

むろん、筆者の心配が杞憂であれば結構なことである。しかし、少なくとも、日本企業の「ものづくり組織能力」と「ものづくり支援IT」の間の相性については、産官学で十分な議論を尽くすべきと考える。ちなみに、第三期科学技術基本計画の関連で、すでに内閣府等ではそうした議論が始まっている。

CADに限らず、IT導入の判断基準は、その会社の競争力の源泉たる組織能力との相性だと筆者は考える。その際、組織能力にITを合わせるのが本筋である。IT導入が組織能力の強化に資するのなら大歓迎だが、既製服的なITに合わせて、せっかく鍛えあげた「理想の体形」を崩すのであれば愚策である。

(尾黒ケンジ=図版作成)