『頼れるフォロワー、困ったフォロワー』というタイトルの近著で、ハーバード大学のバーバラ・ケラーマンは組織が大きく複雑になり、リーダーが一人ひとりに語りかけられない状況になればなるほど、組織として、フォロワーのビジョンへのコミットを強化することが重要だと強調する。また、先に述べた金井氏のフォロワーの能動性も同様だろう。

そして、第3が、常に批判的にリーダーを評価し続ける能力である。これはコミットする能力とやや相反するように思われるが、ある意味ではコミットしつつ、同時にそのコミットの正当性をいつも疑う冷静さだと言ってもよい。フォロワーシップについて多くの観察をしているウォレン・ベニスは、組織が暴走しないために、フォロワーがついていくなかで冷静さを保ち、疑問や不満、リーダーの間違いなどをリーダーに対して伝えていくことがフォロワーシップの根幹だと述べている。能動的なフォロワーと、盲目的なフォロワーを分ける要素かもしれない。

したがって、この3つの能力を兼ね備えたフォロワーは、組織変革や、難しい戦略目標達成のためには欠かせない人材なのである。日本でもこの状況は同じだろう。少し前にNHKで人気番組だった、「プロジェクトX」のエピソードの多くはリーダーシップ物語としてとらえられるが、見ようによっては、フォロワーシップ物語だ。多くのおじさんが涙するのは、リーダーの素晴らしさもあるが、リーダーのビジョンを実現しようと頑張るフォロワーたちの姿だろう。日本企業がボトムアップで強かった、というのも有能で健全なフォロワーが数多くいたからだと考えられる(ただ、おじさんの一人としてちょっと残念なのは、今、私の学生たちに同じビデオを見せても、あまり感動しないことなのだが……)。

でも、今フォロワーシップが弱っているように思う。なぜなのだろうか。いくつも原因があるだろうが、4つぐらいあげてみよう。1つ目はある意味ではしようがないことだが、大きな夢やビジョンが希少になったことだ。短期目標、数値目標、四半期ごとの評価などが前面に出て、大きな夢が語りにくくなった。結果として、フォロワーがコミットできるビジョンが枯渇した。

また、ここ暫く進展した人材の個別管理も夢の大きさに影響を及ぼした。目標設定面接において上司と議論する目標は、部下1人ひとりにブレークダウンされた個別目標であり、またその評価も個別にフィードバックされる。その意味で、組織としての目標や夢を共有しにくくなった。