成果主義の弊害が各所に見られるようになった。孤立無援によるうつの発症や自殺が増え、また、組織のなかで新しい形の派閥が発生している。産業医の立場から男性社会の闇に切り込み、新しい評価の仕組みを提案する。

「自決型死亡」の急増と男性社会の闇

厚労省のまとめによると、うつ病などの精神疾患における労災申請では、1990年代後半以降、過労自殺に関する請求が急増している。2006年度の精神疾患に関する労災申請は819件で、認定者数は205人に上った。

このうち未遂を含む自殺の認定は66件である。職種別データは数年前の調査になるが、管理職が約5割、システムエンジニアなど専門技術者が約3割を占めている。近年の傾向で特筆すべき点は、30代の急上昇だ。

オーバーワークによって命を落とすケースは、大きく2つある。過重労働のあまりボロ雑巾のようになって過労死する場合と、頭をフル回転させ続け、脳の疲労によって虚無感に襲われ過労自殺へと進んでしまう場合だ。

私は後者を、「仕事が著しく停滞することへの不甲斐なさ」や「やり遂げられなかった仕事への責任」を背負って、自らの人生に幕を引くことから「自決型死亡」と呼んでいる。

過労が進むと、疲れによって体のみならず精神的にもパワーダウンしてしまう。本人には自覚があるので、気力で乗り切ろうと自らにハッパをかける。とはいっても、集中力も判断力も低下しているので、仕事は捗らず残業ばかりが増えていく。「どうにかしなくては」という感情だけが先走りして、気分はますます落ち込んでしまう。

こういう状況をたどって最終的に自殺した8割が、はっきりとしたうつ症状の発現から自殺までに3カ月かかっていない。

また、「自決型死亡」に身を投じるのが圧倒的に男性である点も見逃せない。すべてのことを自分1人で仕切り、その成果・責任についても自分だけで受け入れる「自己完結性」は昔から、男の美学とされてきた。しかしながら、終始その姿勢を貫こうとすると、すべてを単独で抱え込み、周囲から孤立してしまう。

ここでは、そういった男性社会の闇に切り込んでみたい。